SSブログ

九試単戦の成功。堀越二郎の挑戦その2

九試単戦.jpg
ついに完成した二郎が求めていた「美しい飛行機」 九試単戦
 

 「風立ちぬ」の主人公である堀越二郎氏の手がけた飛行機たちを調べましたので連続で投稿していきたいと思います。今回はその2。

 さて、前回は工作技術の限界もあり、予想以上に不恰好になってしまった七試艦戦が、2度の撃落事故で完全な失敗に終わってしまった話でした。二郎自身も「鈍重なアヒル」と自嘲したこの「みにくいアヒルの子」は、その生まれと失敗の原因を二郎たちに教えることになります。

 映画ではここで、休暇をもらい、軽井沢で菜穂子と出会い、ラブロマンスを繰り広げて、この九試単戦の成功でクライマックスにいくのですが、それは映画だけの話。しかし現実でも、一回の失敗でよくもここまで進化させたものだと思います。チャレンジの量が半端無かったのでしょうね。

800px-95siki-suitei_1929_.jpg 海軍も「航空技術自立計画」は戦闘機枠の七試艦戦の失敗はあったものの、その他の機種は予定通り進められ、昭和8年には「8試計画」に添って「愛知94式艦爆」「中島95式水偵」、そしてライバルでもあり友人でもある本庄季郎の「三菱8試特殊偵察機(後の96式陸攻)」が開発され、一応の成功を収めます。

中島95式水偵(当時としては無難な複葉機スタイルですが優秀)

 とはいうものの、94式艦爆も95式水偵も複葉機ということもあり革新的な技術はそれほど取り入れておらず、採用できたのは妥当なところでしょうか。やはり戦闘機は難しいようです。

 そしていよいよ、三ヶ年計画の最後にあたる昭和9年。海軍は三菱と中島に再度、艦上戦闘機の開発を命じます。ただし今回の要求は前回の七試の失敗もあることから、技術的には大変な母艦への離発着性能、視界などの項目を外し、単に「九試単座戦闘機」ということで進めさせます。あまり欲張ると全てが失敗する恐れもありますし、軍が少し歩み寄ったわけですね。。この英断は山本五十六少将によるものと言われております。

 要求は最大速度350km/h以上。高度5000mまでの上昇時間6分30秒以内、サイズは全長8m×全幅11m以内と2年前とそうかわらないものでした。(それでも厳しい数値ではありますが)

 ここで、三菱の上層部は、堀越二郎をもう一度設計主任として九試単戦の開発に任命します。よほどの信頼がなければできないことでしょう、二郎の天才性とその情熱にもう一度賭けることになります。

 堀越二郎は、前回の失敗の原因の一つであるエンジンの選定を、企業経営上の不利になることも承知でライバル中島の「誉」5型空冷エンジンを上層部に頼み込んで採用します。

 そして、二郎自身が開発した「沈頭鋲」を使用することで外板の空気抵抗を劇的に軽減することに成功します。三菱の技術スタッフたちも必死の努力で二郎の期待に応えます。

Cap 398.jpg そして主翼の構造も待望の押し出し型の主桁を使えるようになり、理想に近い薄い翼が出来上がりました。

 失敗からの2年の月日は決して無駄ではありませんでした。

 翼はこだわりの逆ガルウイングでしたが、これはパイロットの下方視界向上にも役立っています。何よりも固定脚の長さを短くできるので重量的にもメリットがあったのですが、 母艦への着艦時に安定性を欠くため2号機以降は廃止される方向でした。

 九試単戦は全部で6機製作されますが、逆ガル型はこの最初の1号機のみとなります。これはちょっと残念ですね。特徴的で美しいスタイルなのですが。

 七試艦戦の経験がモノを言い、斬新な設計スタイル、構造スタイルにも関わらず製作は順調に進みます。設計開始から10ヶ月後の昭和10年1月には1号機が完成します。

Cap 318.jpg さて、開始されたテストでは、予想された計算値をも上回る性能を出します。最大速度はなんと451km/h!。5000mまでの上昇時間は5分54秒という高性能でした。

 海軍のいつも厳しい要求値を100km/h上回る速度を出したことに、海軍側は契機の故障と信じて疑わなかったそうです(笑)。当時の現用の中島95式艦戦の最大速度が350km/h、英国のグロスター・グラジエータが405km/h、米国のP-26が380km/hだったことを考えると、九試単戦がいかに早い戦闘機かが分かります。

 念願の日本人による日本人の飛行機が、欧米の戦闘機の水準に追いつき、そして追い越した瞬間でした。みにくいアヒルの母から生まれた子は、それは期待に応える美しい子供になりました。お母さんの失敗あってこその成功であったことはいうまでもありません。

 映画では「すばらしい飛行機です。ありがとう」とパイロットが二郎に握手を求めてきたシーンがありました。映画ではここで一旦終わりになりますが、この九試単戦は、実用化に向けて苦労の道がまだまだ続きます。

 その主な原因は搭載するエンジン・・・。試作一号機には中島製の『寿』五型が搭載されていたんですが、これは事実上の試作品。様々な欠陥があり、実用品とはなり得ないことが判明します。

 そこでエンジンを換装し、中島『寿』三型中島『光』一型三菱試作A-9型などを片っ端から試しました。その様子はまるでエンジンの空中性能テストの観を呈し、昭和10年の正式採用は予定は大きくずれてしまいます。結局九六式艦戦としての正式採用には、ダウングレード版のエンジンを搭載するかたちになるのですが、それは次の記事で。

 

Cap 317.jpg

 

 

【模型と資料について】

九試単座戦闘機

九試単戦です。このシリーズは、1/144スケールでA&Wモデルス さんからなんと3種類も出ています。でもどれも売れ切れ状態・・・・・。

1.九試単座戦闘機 試作1号機 寿5型エンジン搭載機(映画の機体はこれ)

 AW144014 ka-14.jpg

 堀越二郎氏の好む逆ガルウイングなどがよく表れていると思います。エンジンがスッキリしていますね。


→【A&Wモデルス 1/144 Ka-14 寿エンジン レジンキット】AW144014を扱っているお店はこちら

 

2.九試単戦 エンジン変更型

 エンジンがごつくなりました。中島『寿』三型中島『光』一型三菱試作A-9型などを片っ端から試したモデルのようです。

九試艦戦.jpg

 

→【A&Wモデルス 1/144 九試単座戦闘機 Ka-14 レジンキット】AW144004 を扱っているお店はこちら

 

3.キ-18(九試単戦の陸軍向け仕様) 

 この九試単戦があまりにもインパクトがあったせいで、海軍だけでなく陸軍向けに試作したキ-18も出ています。結局は不採用で、次の3社競作に持ち込む結果となりましたが、三菱側がこの決定に不満を持ち、以降、陸軍に対し消極的になった原因をつくりました。原因は陸軍の面子にあったのではと言われています。1機のみ作られています。操縦席から尾翼にかけてのシルエットがだいぶ異なりますね。

AW144018 ka-18.jpg

→【A&Wモデルス 1/144 試作戦闘機 キ-18 レジンキット】AW144018 を扱っているお店はこちら

 

「世界の傑作機」では、九六式艦戦の前の機体である九試単戦も三面図とともに2ページほど記事があります。

96式艦上戦闘機 NO.27 (世界の傑作機)

中古価格
¥380から
(2013/8/5 22:51時点)

こんな記事もどうぞ

来たよ(31)  コメント(0)  トラックバック(1)  [編集]

nice! 31

コメント 0

トラックバック 1

トラックバックの受付は締め切りました
Copyright © 1/144ヒコーキ工房 All Rights Reserved.

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。