「風立ちぬ」の主人公である堀越二郎氏の手がけた飛行機たちを調べましたので連続で投稿していきたいと思います。今回はその3。
映画では成功に終わりました9試単戦ですが、その後、正式採用されるにはまだまだ紆余曲折の道が続きます。その主な原因は搭載するエンジン・・・。試作一号機には中島製の『寿』五型が搭載されていたんですが、これは事実上の試作品なので、片っ端からエンジンを換装させてテストを繰り返しますがなかなかこれといったエンジンが見つかりません。
昭和11年(1936年)に入っても九試単戦のエンジンが決まらず、そうこうしている内に国際情勢は悪化していき、中国大陸はいつ戦争になるか分からないところまで切迫してきます。
海軍もここでようやく九試単戦の正式採用を決断します。エンジンは不満を承知で中島『誉』2号改(630hp)をとりあえず使うことにします。最高速度も406km/hと大幅に落ちるのは仕方ありません。
1936年11月、九試単戦の7号機以降は、こうして九六式1号艦上戦闘機(A5M1)として、ついに量産が始まります。九試単戦の完成から実に2年近くかかりました。
この時に落下式増槽(落下式の燃料タンク)が採用されます。これは世界でも最初の試みで特筆されるべき内容でした。左の画像では、翼下に密着するタイプのものでしたが、すぐに円筒の涙滴型の見慣れたタイプのものになります。
さて、実際に戦争に使われ始めると、大勢のパイロットたちや整備士たちの要望が山のように届けられ、三菱の技術陣はその対応に追われることになります。九六式艦戦も少ない機数の割には様々なバリエーションが生まれることになりました。
◆九六式1号(A5M1) 堀越二郎の記念すべき初の正式採用戦闘機。2枚プロペラが特徴的です。
エンジンは630hpしかない中島『誉』2型改。機体の軽量化を徹底して行ったので頭が重くなって転覆する事故が度々起き、パイロットの頭を保護する支柱が着陸時に出るようになってます。(図参照) 通算29機ほどの生産機数に終わりました。最初の空戦による成果はこの1号機から始まります。中国空軍の戦闘機6機を空母「加賀」から発進された2機が迎撃。6対2の劣勢にも関わらず、3機を撃墜するという成果を上げます。
◆九六式2号1型【前期】(A5M2a)
エンジンを中島『誉』3型(690hp)にして3枚プロペラに。ほんの少しパワーアップ。
◆九六式2号1型【後期】
操縦席の後ろの背ビレが高くなりました(パイロット保護?)。2号1型は前期・後期で合計39機の生産で打ち切られ2号2型へと生産が移ります。
◆九六式2号2型【前期】(A5M2b)
胴体を再設計して太くしました。エンジンはそのままですが、カウルフラップがつきます。タイヤもカバーも大きくし、スライド式密閉風防をつけてデビューします。が、開けっ放しで飛ぶことに慣れているパイロットたちには、この密閉式風防は大不評。現地では、いら〜ん!ということで外されてしまいます。で、結局もとの開放式風防に戻してしまいます。この2号2型【前期】だけで4種類の風防の型があるので迷いますね。
◆九六式2号2型【後期】操縦席の風防を高くしたり、広げたり、なんだかんだで落ち着いたのがこのタイプ。1号に較べて風防がかなり大きく見えます。やはりパイロットの意見は大きいです。
◆九六式3号(A5M3a)
イスパノアメリカ空冷エンジン(690hp)を換装した異色の存在。2号1型の2機に空冷エンジンを搭載したタイプで実験で終わりました。
◆九六式4号(A5M4)
昭和12年(1937年)の末にようやく、九六式艦戦に最適なエンジンが出来上がります。『誉』4型(785hp)です。4号の最大速度は435km/h。上昇時間は高度3,000mまで3分35秒に向上し、実用装備などを考慮すれば、ほぼ九試単戦1号機の性能を挽回したといえます。
海軍も日華事変の激化に伴い、これで行こうと生産ラインを強化させます。他の会社でもライセンス生産が始まり、総生産機数は1,000機にも達しました。本格的な純日本戦闘機の量産体制です。
【九六式艦戦の活躍】
昭和12年9月から始まった南京上空戦闘では、九六式艦戦が敵戦闘機をバタバタを落とし始めます。この大戦果に国内の新聞もこぞって書き立て、この「海軍新鋭戦闘機」の名は国民にも広く知れ渡ることになりました。
最大の戦果は、昭和13年4月29日。九六式艦戦27機と中国空軍各種戦闘機78機もの大空戦で、2機の損失で51機の撃墜を上げます。まさに天下無敵の大活躍です。日本人だけの力で欧米列強国機に対抗できる機体を実現するという目標は、この九六式艦戦によって達成されたといえましょう。
さて、実用化までに2年近くかかってしまったせいで、ライバルの各社も低翼単葉、全金属などの開発にこぎつけ、九六式艦戦の優位性は国内では早くもなくなりつつあります。特にライバルの中島飛行機の陸軍九七式戦闘機は、模擬空戦で、九六艦戦よりも速度、上昇力、格闘戦性能の全てで勝る結果になります。しかし、堀越二郎は次の飛行機への開発へと目が向いていました。そう、超有名な「零式艦上戦闘機」です。
→次回へ続く
中島九七式戦闘機(ウィキペディア) 九六式艦戦と同じ低翼単葉そして全金属、しかも密閉式風防。
【模型と資料について】
九六式艦戦のプラモデルはマイナーな機体に加え、ここのところの人気で在庫切れが多いようです。入荷するかもしれませんし、リクエストできる可能性もありますので載せておきます。
◆1/32スケール チェコのスペシャルホビーというメーカーのみです。2種類。
左が日華事変2型A5M2b (定価6,930円税込)、右がハイテック版4型A5M4(定価7,770円税込)です。
あみあみさんから取り寄せ予約ができます。
→【取り寄せ】1/32 九六式艦上戦闘機 A5M2b 日華事変
→【取り寄せ】1/32 九六式艦上戦闘機 A5M4・ハイテック(再販)
急ぎで欲しい方はこちらから。在庫があります。お値段はあみあみよりも高め。ホビープラザビッグマンというお店です。
◆1/48スケール ファインモールドから3種類発売されていますがどこも在庫切れのようです。
九六式1号は貴重な2枚プロペラで1号のプラモなのですが。Amazonで出品者さんから入手はできるようです。
左が九六式二号の前期型。右が九六式二号の後期型のパッケージです。再販の可能性があるかもしれません。
◆1/72スケール フジミと童友社から出ています。在庫切れを起こしていましたが、再販の予定があるので現在のところ一番入手しやすいかも。
フジミからは4種類発売されています。左から二号一型(後期)、 二号一型(海軍航空隊)
二号ニ型(後期)、 四号(蒼龍搭載)
→【08月予約】フジミ C-19 1/72 96式艦上戦闘機(2号1型後期)
→【08月予約】フジミ C-22 1/72 96式艦上戦闘機(2号1型)“海軍航空隊”
→【08月予約】フジミ C-21 1/72 96式艦上戦闘機(2号2型後期)
→【08月予約】フジミ C-20 1/72 96式艦上戦闘機 4号(A5M4) 蒼龍戦闘機隊
童友社は二号ニ型ですね。
さて、これ以外のキットですとあとはレジンキットなどになりますが、スケールは1/144になります。
◆1/144スケール
このシリーズは他にはない九六式艦戦の三号機が発売されています。水冷エンジンを搭載したタイプなので、外見はまったく異なります。
→【A&W 1/144 九六式三号艦上戦闘機 A5M3 レジンキット】の画像と購入はこちら
「紙でコロコロ」さんでも発売されています。(七試艦戦、九六艦戦一号、三号)
→http://www.ne.jp/asahi/kamikoro/top/top.html
九六式艦戦・九試単戦を作ろう! (イチから始めるプラモデル) 新品価格 |
この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。
風防があいていても息が出来たと言うことなんでしょうが、視界を遮る物があることが一番のデメリットとパイロットは考えたんでしょうね。
by 楽しく生きよう (2013-08-08 19:04)
楽しく生きようさま
こんにちは、メガネもそうですが目の前に遮るものがあると、最初は慣れないものですよね。密閉式の方が速力が上がるので、堀越技師は、したかったらしいですが(笑)。
by onemore (2013-08-08 22:33)