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慰霊としてのミリタリー模型

 さて、真夏の夜のちょっと恐い話も今夜で一旦終了です。
 最後の話は、私こと、ワンモアが模型製作に特殊な想いを抱くようになったきっかけともなった不思議な話を。

 
 私は、学生時代は高専に在籍していまして、学園祭ではミリタリーの模型などを展示することになりました。

 選んだのは、1/48スケールの零戦です。付属のデカールではみんなと同じになりますので、世界に一つの零戦を作ろうと雑誌「丸」やら「航空ファン」などの資料をあさり、プラモデルでは発売されていないであろう所属部隊の零戦にしました。
 確か52型以降の62型あたりだった記憶があります。零戦の末期の特攻機仕様の機体に改造したと思います。


Cap 289.jpg

 当時は52型以降の機体はマイナーな部類だったような・・・。

 学生の身分ではデカールの自作などは出来ませんでしたので、余ったデカールを使ったり、切ったりして部隊番号などを作りました。製作は凝りに凝ってギリギリになり、ようやく完成したのは、深夜のこと。

 すっかり作業机となった勉強机の上に、出来上がったばかりの零戦を置き、べットに倒れこみました。
 恐らく誰も製作していないであろう、世界で唯一の零戦です。自己満足に浸り、眺めながらそのままウトウトとしていました。

 現実と夢の狭間にいたのでしょうか。何やら話し声が聞こえます。どうやら男の声のようです。それも二人。
 何を話しているのか聞き取れませんが、なにやらはしゃいでいる様子が伺えます。
 夢の中なのに目が開けられなくて、暗闇の中に声だけが聞こえてきます。

 意識を集中してじっくり聞いていると

「おお、これか」「へえ。よく出来ているな」と声が。

零戦.jpg


 やがて、本格的に眠りに落ちたのか、夢の中では翌日の文化祭の展示コーナーが現れてきました。
 そこには、明日、自分が展示するであろう、零戦の模型が置かれています。自分はそこから少し離れたところに座って見ているのです。
 そこに、先ほどから会話している男の人が二人立っていました。

 カーキ色の半ズボンとランニングシャツ、坊主頭の男の人たちです。年は自分より少し上の感じですが、少年のような若い兵隊さんのようです。整備兵らしき感じを受けました。そして、あぁ、夢だなあと考えている自分がいます。

「おい、●●少尉を呼んでこいよ」静かで小さい声ではありますが、はしゃいでいる雰囲気が伝わってきます。
 一人が展示の会場が出て行くと、しばらくして別の若い兵隊さんを連れてきました。

 将校なのでしょうか、質素な服ではありますが、シャッキとした佇まいの男性。操縦士というのがなぜか判りました。

そして、彼らが覗きこんで見ているのは、私の零戦の模型です。

下士官.jpg
(イメージ画像「日本海軍軍装図鑑」より)

 

 少年兵たちは嬉しそうに専門用語を飛ばし合い会話をしています。それをうれしそうな様子でみている少尉さんがいます。私はそれを離れたところから椅子に座って見ているのです。

 背中からでも三人の様子がこっちにも伝わってきて、夢の中でも、なにやらこそばゆいというか、照れくさく、恥ずかしくなってくる自分がいました。
 その時、少尉がこちらを振り返りました。顔はなぜか覚えていません。
でもその時に耳の側ではっきりとした声が聞こえました。
静かで優しくても力強い意思がこもった声。

「ありがとう」と。

 その瞬間にハッとして目が覚めました。そこは、自分の部屋でした。いつの間にかそのまま寝てしまったようです。

 先程の言葉が妙にリアルに耳に残っています。夢にしては、リアル過ぎて動悸の高まりによって、すっかり目が覚めてしまいました。
 そこで起き上がって、なにげに机の上の零戦を見たのです。

 その時、感じたのですが、それは確かに私自身が製作した零戦なのですが、なぜか、妙にありがたいというか、荘厳というのか、粗末に扱うものではない雰囲気を感じたのです。
 自分が作ったものなのに自分が作ったものではないような不思議な感覚でした。



 翌日、文化祭の展示コーナーに零戦を陳列しました。夢でみた展示コーナーとは若干違いましたが、私の座った場所、そして零戦が見える位置は同じでした。
 実はこの時、昨夜の夢が正夢になって、兵隊さんの幽霊が私の目の前に現れるのではないかと、ドキドキしていたのです。

 「正夢になることは、まさかないよな
」と・・・・。

 結局、
不思議な事は起こらず、何事もなく文化祭は終了しました。夢の体験だけが残ったのですが、展示してある零戦を前に色々と考えてしまいました。

宮部機05.jpg


 もし、霊というものが存在し、自分が死んでもその魂が地上に残ったりして、自分が死んだ後の世界も見ることができる、その立場だとしたら、どう思うだろうかと。

 自分たちが命を賭けて戦い、残された家族や日本のことを思うと、すごく気になるだろうなと思います。

a0781_000010.jpg


 そして、自分が最後に搭乗した機体を、何十年後かに知らない誰かがつくってくれたらどう思うだろうかと。やっぱり嬉しくなって見にくるかもしれないなぁと。

 模型を製作する時には、こういう思いも忘れてはならないなと、展示コーナーに座りながらぼんやりと考えていました。


A6M3_Zuikaku_Rabaul.jpg



 製作中はものすごく集中します。世界でたったの一機をつくりたいという思いが、潜在意識下に影響して、こういう夢を見たのかもしれません。
 所属がどこで、誰が搭乗した機体だったのか。それはもう、覚えていません。
しかし、このことがきっかけになり、模型製作への取り組みが変わったのは事実です。


 
菅原道真公や平将門の神社など、日本には、非業の死を遂げた人を後世の人々が慰める慰霊の文化がありますが、こういう形で慰霊につながることもあるのかもしれないと思います。

 展示場の窓から見えた校庭や樹木などの景色が、鮮やかに綺麗だったことがいつまでも印象に残りました。そして、あの静かで優しくても力強い「ありがとう」という声も。

 

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コメント 3

desidesi

そのような想いがあったのですね。
とても感慨深い話を伺えて良かったです。
素晴らしい取り組みだと思います。
by desidesi (2015-08-05 02:08) 

ハマコウ

思いがどこかでつながっているのだろうと言うことを感じました

by ハマコウ (2015-08-05 05:57) 

YUTAじい

おはようございます。
不思議な体験されてんですね・・・
富岡は涼しくなってからが正解の様です。
by YUTAじい (2015-08-05 08:22) 

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