お正月も終わりですね。今日から仕事初めの方々も多いと思います。
2日には子供たちの「書き初め」を手伝ったのですが、この時期は「今年一年の抱負」を立てるということで若い頃に較べて、チャレンジ精神よりも健康でありますようにとか、安全を願う気持ちの方が強くなってきました。いかんですな。
この一年の抱負を考える時にいつもふと思うことがあります。それは、数十年も前の事なのですが、「千冊読書を達成する」という抱負なのです。
それは、二十代後半の頃から5年近くかかって実際に達成できたことなのですが、思い出すたびに「当時はよくやったなぁ」と思ってしまいます。
長くなると思いますがお付き合いくださると幸いです。
◆千冊読書の抱負
それは、以前の職場の上司の新年の挨拶でした。
「若いころは良書をどんどん読まなくてはダメだ。最低でも千冊。千冊読めばマスコミの嘘も分かり、自分の意見が持てるようになれる。私に意見するなら最低千冊は読んでこい。自分は大学時代からもう、五千冊以上は読んできた。君たちも新年の抱負として決意しなさい。」
と。
まあ、自分の成功体験を部下にもゴリ押ししてくる上司なのですが、そういう自信満々なカリスマ的な部分に感化され、決意する同僚も何人か出てきました。私は鼻について、内心「この野郎」という気持ちもあって決意しました^^;
この上司、後でついたあだ名は「千冊部長」です(笑)。
◆何の本を読んだらいいのか
とはいえ、何の書籍を読んだらいいのか?良書とは何でしょうか。評価が定まっている文学書を筆頭に、歴史、哲学、宗教、実用、教育、経営、自己啓発など多くの分野があります。趣味・娯楽は入れていいのか?考えなくてはならないことがかなりありそうです。分野別に考えても軽く千冊は行く感じがしました。
幸い、千冊の期限はなかったですし、どの分野の書籍を読めという指定もなかったのですが、別の上司から「最初は自分が好きな分野から初めてみろ。そして次に仕事で必要だと思う分野を2割ぐらい入れろ。」というアドバイス通りに行いました。
この上司も千冊以上読んでいる強者なのですが、「やってみれば分かることがあるよ。」とニヤニヤ笑っていたのです。
◆少ない時間をどう活用するか
仕事で必要な知識として、まずは、『◯◯が勧める100冊』など、有名な著作者が勧める書籍を選んでいきました。世間話のネタになるようにベストセラーなどの流行っている書籍にも手をつけてみます(良書かどうかは別ですが)。
一番の問題だと思っていたのは「読書時間の確保」でした。これは仲間が全員感じていたことです。当時の残業時間は軽く月80時間を超えていましたし、家には寝るためだけに帰るようなものです。こんな状況下で千冊の読書時間など作れるはずはないと思うのは当たり前であったと思います。
しかし、時間は工夫次第でいくらでも作れました。
細切れの時間を使ってエッセイ風の文庫を。まとまった時間のある時は「仕事に必要な分野の書籍」を線を引きながら読み込む。週末は、さらに内容の濃いぶ厚い書籍を。電車の中で読み切りができる本など、時間を工夫しながら同時並行で読み込んでいくことが出来るのです。
「講談社現代新書」などは通勤に読むには丁度良い分量なので常に常備していた記憶があります。
また、速読のノウハウなども少し勉強し、読む時間を短縮する工夫もしました。「読む時間が無いというのは言い訳で、やろうと思えば工夫次第でいくらでも作れるもんだな」と当時は思ったのです。
◆予想外の壁
このように、それぞれが100冊、200冊あたりになってくると、ちょっと知識をひけらかす時期なのでしょうか。女性たちからは、「会話している男性たちが鼻につく〜」と陰口を言われるようになってきました^^;
気がつかない間にちょっとした天狗になっていたかもしれませんね(笑)。
しかし、それも500冊、600冊と重ねるにつれ、自慢する余裕もなくなってくるのです。
千冊読書を始める前にはまったく予想をしていなかった壁が立ちはだかりました。それは、読む本がなくなるということなのです。いや正確には「読みたい本が無くなる!」のです。
これは意外でもありましたし、一番厄介な問題でした。最初の数百冊ぐらいはいけるのです。自分の好きな分野の書籍から入っていって、自分に必要と思われる知識の書籍をちょっと頑張って読んでいくという方法で。
しかし、段々と次に読む書籍がなくなってくるのです。正にブログのネタ切れ状態!^^;
書店に行っても触手が伸びる本がないのです。
元々読書は嫌いではなかったのですが、陳列している書籍を見ても手に取りたいと思えないのです。
これはマズイと思いました。一気にペースは落ちていきます。同僚たちも同じことを言う人たちが出てきました。無理やり読もうとしても、字面だけ目が追うだけで頭に入ってこない・・・。
別の上司が言っていた「やってみれば分かることがあるよ」という言葉の意味はこれだったのです。
これを乗り切った方法はただひとつ。「自分の関心領域を広げる」ということでした。
◆関心領域を広げる
例えば、歴史とかですと自分の好きな時代があります。日本史でも古代史に惹かれるとか、鎌倉時代が好きだとか、戦国時代がいいとか、日本史よりも世界史に興味があるとか。
最初は自分の好きな分野から入っていき、その領域の前後など、関係のある未知の領域に少しずつ入っていくという方法です。
自分は元々、工学系のバリバリ飛行機マニアでしたので、歴史の分野も戦記ものとかマニアックなものばかりでしたが、戦記ものから政治力学、地政学へと、なんとか関心を広げていきました。いわば好きな部分を見つけていくという努力です。
すると500、600冊で一旦止まりかけた読書量がまた増え始めます。そして数カ月後にまた壁が。そこでまた関心領域を広げて壁を突破しペースを上げていく。こんな感じの繰り返しだったと思います。
ただ、「良書」という制限だけは課していました。娯楽小説や推理小説、趣味の本などに走っていった同僚もいましたが、それでは冊数は稼げても「知識を広げる」という意味で、中身が薄くなってしまいます。
なるべく苦手分野にも関心の手を広げるという気持ちで戒めは自分に課していたのです。
◆目標の細分化
自分の読書ペースが把握できると、年間の読書数が推定できます。それを少し上乗せして年間目標を新年の抱負に立て、さらにそれを月で割って月間目標、下半期、上四半期など細かく設定していきます。
その次に読む書籍の分野を割り当てます。知識欲を広げる趣味的な分野。現在仕事で必要な分野、将来必要と思われる分野。自分とは縁のなさそうな苦手な分野など。
これも色々と配分を変えて負担がかからないように調整を繰り返しました。
また、今まで読んできた書籍を本棚に整理していくことで、自分の足跡を目で確認しモチベーションを高める工夫もしました。
こんな感じで、色々とあの手この手を使い、冊数を重ねていったのですが、職場は2年、3年と経つにつれ、読書の件はいつの間にか話題にすることもなくなり、休み時間に読書をしている姿も見なくなってきました。そして、例の”千冊部長”が異動になると、千冊読書の事は誰も口にすることはなくなりました。
ただ、私は続けていたのです。それは、読書自体が面白くなって止められなくなったことと、別の上司の手助けのおかげでした。
◆上司の協力
「やってみれば分かることがあるよ」と言っていた上司は、私の読書の様子をよく観察している方でした。
そして、ある日のこと、ぽんと2万円を出してきて「◯◯の環境問題について今度会議で話をするので、これで関連書籍を10冊ほど君の裁量で選んで買ってきてくれ。」と言ってくるのです。
書店でそれらしい書籍を選んでレシートと共に持って行くと、上司は、「じゃあ、その本を君が読んで、要約して私に説明してくれ。あ、本はラインを引いていいから。」と言ってくるのです。
おぉ、そう来たかと思いました。自分で読まないで私に読ませて説明させるとは。なんと要領の良い上司だと(笑)。
一応、私のことを見込んでくれているのだなという思いもあり、一生懸命読み込んで上司に説明にいくと、上司から色々と質問され、それに対し、また答えるということを繰り返しました。
そして最後に「じゃあ、君の推薦する書籍を一冊だけ貸してくれないか」といって会議に出席するのです。
効率の良い情報の集め方だなあと、ちょっと恨めしくもあったのですが、私も他人のお金で書籍を読むことができ、上司の役に立っているのですので、まあ、良かったのですが(笑)。
またある時は「娘が夏休みの課題で◯◯についてまとめるのだが、どの書籍を読んだらいいか、君が娘に読ませる本をチョイスしてきてくれ」など。
そうすると、今度はその娘さんの年代に合わせた書籍を選んでいくことになります。また選んだ理由も説明しなくてはいけません。
誰かに説明するためにその本を読むということは、「要するにこの著者は何が言いたいのか」という視点で読むので、集中力が違ってきます。また自分の肥やしには必ずなります。
そのうちに分かってきたことなのですが、上司は自分が選びそうにない分野を広げてくれているのだなと思うようになりました。
上司も千冊読書の先輩として、その苦しさを知っていたのかもしれません。
◆千冊読書の効用
そのような手助けもあり、途中で、転勤・結婚・出産など人生の一大イベントを経験しながらバタバタする中、5年間の目標のところを実際には4年半で千冊読書を達成できたのです。
ちょど30歳になった年でした。かかった費用は百万円を超えたのではないでしょうか。すべて読了の日付サインとラインマーカーを引いているので処分することもなかなか出来ません(笑)。
さて、それで「千冊読書」を達成してみて、一番の効果は何であったか。博識のあるインテリのようになったのか。マスコミやTVのコメンテーターのレベルについていけるようになったのか。そこまでの自信はありませんでしたが、実は読書で得た知識量よりも、更に効果があったことがあります。
それは「人や物事への苦手意識がなくなった」「怒る頻度が極端に下がった」ということでした。
読書の効用は、人間関係に顕著に出てきました。嫌だなぁとか苦手だなぁという人とも距離を置くことはなくなりましたし、苦手分野がなくなったということは自分にとっての予想外の、しかし自分にとっては最大の収穫でした。
営業が苦手な人の原因に「話すことがない」「話題が見つからない」ということがあります。自分でも驚きだったのは、その後に経験した営業活動も苦にならなくなったということでした。 今までは話についていけないと苦痛を感じていたのですが、なんとなくでも読んだ経験があるとついていけるものなのです。それは年配の方や、専門分野でマニアックな方々には効果的でした。そしてそれは自分にとっても面白く、その方を通じてまた新たな関心領域を広げることができたのです。
「”知らない”ということは、実に様々な壁を作り上げていくものだなぁ。」ということを実感したものです。そして、その壁があることを他人のせいや環境のせいにしていたのです。
◆怒りの発生原因の主な理由は、相手が理解できないということ。
また、多方面の考え方がいくらかでもできるようになったので、相手がどうしてこういう考えを持つのかが自分なりですが、理解できるようになりました。すると自然に怒る気持ちも収まるのです。
「怒り」の原因には、「相手の考えが理解できない」、「相手の事を知らない」というという部分が大きいのではと思います。だから相手の行動や考え方が理不尽に感じるのではないかと。特に自分が正しい、正義感が強いと思っている方はなおさらだと思います。
しかし、相手にも色々な人生経験があり、どうしてこのような考え方や行動に出たのかが、ある程度推察できると冷静になれるのです。
相手にも、それなりの事情やドラマがあるのです。それもでも、ダメなものはダメと判断するのは別の話ではあるのですが、相手の考え方に共感するという部分において読書の効果は大きいのではと思うのです。また、関心領域を広げるという訓練は、他人の長所を見つけるという訓練にも役立ちました。
特に政治の話になってきますと、現代の社会への理不尽さということで「公憤」が沸き起こることもありますが、賛同できるかどうかはともかく、異なる考え方を理解することができるようになります。
自分としてはAの考え方だが、Bという考え方もあるし、Cという考え方もできるという風に色々な考え方ができるようになるのは、人生を豊かにしていくものだと思います。
◆物事を覚えるのに一番の敵は苦手意識
仕事においても知識や勉強の吸収を妨げる一番の敵は、「苦手意識」だということがよく分かりました。
自分自身が創りだす「苦手」という意識が、必要な知識の吸収を妨げる最大の壁だったのです。それは頭の善し悪し以上に厄介で、知識を吸収する上で大きな壁ではないかと思います。
正直、今では読んだ書籍の内容はほとんど忘れていると思います。しかし、新しい分野にチャレンジする時に、なんとなく知っているということはメリットですし、苦手意識の壁がなくなってることで、他の人よりも飲み込みは早かったのではないかと思います。
後輩を指導する立場になった時も、苦手意識が全面に出ている後輩には、「まず書店でこの分野の本をよく分からなくてもいいから10冊買ってきなさい。そして訳がわからなくてもとりあえず、頑張って最初から最後まで全部読んでみなさい。そうするとなんとなくでも分かった気になるでしょ。この「なんとなく分かった気になる」というのが大事で、そこからがスタートだから」と、苦手意識の壁を下げることに努力しました。そして知識そのものを教えるよりも、こんなこともできるよと面白さの方を中心に教育していたように思います。効果はあったように思います。「好きこそものの上手なれ」は物事の核心をついているのではないでしょうか。
このブログも3年近く続けていますが、時にネタ切れになって困る時があります(笑)。
自分だけでの問題でもなく、色んなブログを訪問していてもネタにお困りになられている方もよくいらっしゃるようです。苦労しているのは皆さん同じなのですね^^;
そういうネタに行き詰った時は、上記の体験をもとにして、自分の関心領域を広げる、何か好きな部分を見つけていくという風にしています。
様々なブログに訪問させていただくと、「こういう楽しみ方があるのか」と、みなさんの関心事を勉強させていただいています。自分では気づいていない日常の出来事や関心事など、ヒントになることが数多くあるのです。
今ではネットで調べ物も早くできるようになりましたし、読書何十冊分の情報量はたやすく得ることができます。そういう意味では書籍のもつ使命は幾分薄くなってきているとは思いますが、書籍には書籍の良さがあると思うのです。
以上、長文になってしまいましたが、今年も色々な楽しみごとを増やして行きたいと思います。
<まとめ>
・良書を千冊読むというのは知識を広げる以外にも色々な効果がある。
・読書の時間は工夫次第でなんとでもなる。
・他の人に教えるために読む、目標を細分化するなどの工夫も効果的。
・千冊読むのに最大の壁は「時間」ではなく「感心の広さ」だった。
・関心領域を広げるコツは好きな部分を見つけることで人間関係にも活かせる
・他人から教わり新たな分野を広げることも必要。
・仕事を覚えない最大の敵は「苦手意識」だった。
・千冊読書の効用として「苦手意識がなくなった」「怒る頻度が減った」などがあった。
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最近本買っていないです!
なんかiPadで読んじゃっているのですが、ipadは重いです(^^)
by ma2ma2 (2016-01-04 13:54)
読書は、教養を高めますね。
国と国もお互いのことを理解すれば、争いは減りますけどね。
by なんだかなぁ〜!! 横 濱男 (2016-01-04 16:31)
長文ですが、まとまった文章能力です。よく伝わりました。
by yuuki_n (2016-01-04 20:16)
「貴方は本を読まないから 文章が下手」 とよく言われます
ダメですね
by タイド☆マン (2016-01-04 21:00)
学生時代は1日2冊本を読んでいましたが、
結婚してからは激減し、今は月に数冊の
カメラ雑誌を眺めるだけになりました(*´∇`*)
by johncomeback (2016-01-05 10:47)
こんにちは。
1000冊はすごいですね。
私は自分の好きな分野しか読めないとおもいます^^。
by 海を渡る (2016-01-05 12:35)
本はよく読んでいますが
気が付くと目で流している時が多いですね
小説ばかりなので飛ばす感じです
by soujirou-3 (2016-01-05 14:56)
1000冊を5年弱…すごいエネルギーだと感じます。
-苦手意識をなくすことができる
-怒らなくなる
わたしの場合、本を読むと自分の世界が広がると同時に、自分がまだあまり分かっていないことに気付きます。わたしも若い頃に比べて怒りっぽくなくなったは読書のおかげでしょうか。
忙しいときほど読書が進むというのは分かります。集中できる度合いが違うのでしょうか。
よい上司をもつことができ幸せだなあとうらやましくも感じます。
by ハマコウ (2016-01-05 18:24)
以前は1日1冊のペースでしたが、今では・・・好きな本は、毎晩の数十分しか読書の時間がありません(^^;;
by 駅員3 (2016-01-05 20:31)
なるほどどうりでブログ記事の書き綴り方も他の方達とは違うし素敵だなあ~と思ってましたが
本をたくさん読まれていたのですね納得(ペースすごすぎW)
だいぶ年もあけてしまいましたがおめでとうございますw
by ちょいのり (2016-01-06 03:55)
★ ma2ma2 さま
電子書籍も良いですが、もう少し軽くならないかなと私も思います^^;
★なんだかなぁ〜!! 横 濱男さま
自分の欲しい情報だけ集めていくと益々距離が離れていくということもあるのでバランスが大事ですよね。
★yuuki_nさま
お付き合いくださってありがとうございます^^;
★タイド☆マンさま
>「貴方は本を読まないから 文章が下手」 とよく言われます
え? そうでしょうか?私はそうは思いませんが^^
★johncomebackさま
私も職場が変わって激減しました。それとネットの普及も影響しています^^;
★海を渡るさま
私も今はもうダメです(笑)。
★soujirou-3さま
好きな小説って続きが早く読みたくて結構飛ばし読みしてしまいますよね^^;
★ハマコウさま
いつもためになる書籍をご紹介してくださって勉強させていただいてますm(_ _)m 私の場合は本当に良い上司に出会いました^^
★駅員3さま
駅員3さまの専門知識の多さにいつも感嘆しております。私ももっと勉強しないとダメですね^^;
★ちょいのりさま
ありがとうございます。私は、ちょいのりさんの架空のキャラを登場させ、対話形式で説明していくスタイルが大好きなのです。
自分の知らないことを、分かりやすく、面白く説明してくれるので、長くても苦にならず、いわば私の理想形なのです^^
by ワンモア (2016-01-06 08:06)