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「屠龍」という戦闘機にまつわる不思議な縁

 さて、最近は真夏の夜ということで、涼しくなるコワイ話ばかりをアップしていましたが、ここで、このブログらしく、「飛行機と戦争にまつわる話」を語りたいと思います。実話です。これを語りたかったので前振りで「不思議な話」を小出しに出したということもあるのです。


 十年位前になりますでしょうか、ネットオークションで、在庫の食玩の飛行機を出品していた時のことです。
 エフトイズから発売されていた「双発機コレクション『屠龍』」を落札された男性から、このようなメールをいただきました。

Cap 278.jpg
エフトイズ「双発機コレクション2」の「屠龍」


 「この度は落札できてありがとうございました。この二式複座戦「屠龍」は数年前に他界した父が搭乗していたものなのです。墓前に添えることができ、感謝しています」と。
 落札者さんは確か東京の方だったと思います。詳しく聞けば貴重なお話が聞けたかもしれないと残念な思いを抱きつつもお取引はそこで終了となりました。

 この二式複座戦「屠龍」とは、第二次世界大戦で日本陸軍が開発した複座の双発戦闘機です。二式戦は単座の「鍾馗」という重戦闘機があるのですが、それと混同を避けるため、二式複座戦という名称になっています。
 「屠龍」は中国戦線の地上攻撃任務などの紆余曲折を得て、最も活躍をしたとされるのが、B-29の迎撃任務でした。
 強力な斜銃を搭載した「屠龍」は、同じく斜銃を搭載した海軍の「月光」と共に最後の抵抗を示したのです。

 二式複戦を装備する飛行第4戦隊飛行第5戦隊、飛行第53戦隊といった部隊が戦果を挙げたとされています。

-1.jpg
陸軍の二式複座戦闘機「屠龍」


 それから数年後、再び、ネットオークションで「屠龍」が落札されました。そして、メールには、またもや「亡くなった父が搭乗していた機体です」と。
 あれ?前回と同じ方?とも思い、調べてみたのですが前回の方とはまったくの別人で、今度は茨城県の土浦市在住の方でした。

 「零戦搭乗員会(元零戦パイロットたちの集まり)」のように、屠龍」搭乗者の遺族会か何かあってそれで、遺族の方が求めているのかしらと不思議に思い、メールで聞いてみましたが、そういう会などではなく、ただ、お父さんの生前のお話を思い出して、入手したいと思ったとのこと。

 その息子さんいわく、お父さんは松戸の飛行隊に所属し、終戦後、家族のいる地元の土浦市に戻り、そこで生活をされていたそうです。そして亡くなる数年前からぽつりぽつりと「屠龍」という戦闘機のことを語りだし、B-29の迎撃で戦ったことを話してくれたとのこと。
 偶然とはいえ、「屠龍」の食玩を元搭乗員の息子さんがそれぞれ私のところから求めるとは・・・・・。不思議な縁ってあるものだなと思いました。

 しかし、話はそれで終わらないのです。

 それから更に数年後のことです。仕事で千葉県の松戸市のお客さんの家にお邪魔していた時のことですが、ふと、あることから亡くなったお父さんの話になりました。
 お父さんは、戦争中に戦闘機乗りだったとのこと。飛行機好きな私としては、思わず食いついてしまいました。今までも海軍の巡洋艦乗りだったとか、中国大陸で衛生兵だったとかの話を聞いたことがあり、そういう話になると、つい詳しく聞いてしまうのです。

 息子さんは私の予想以上の食い付きに苦笑しつつも、お父さんのことを語りだしてくれました。

 お父さんは、所沢部隊から千葉の松戸の部隊に配属になって、そこから米軍機の迎撃に向かったこと。その飛行機は「機銃が上向きに搭載」されており、それでB-29を攻撃したこと。夜の戦闘が中心なので昼夜逆転の生活だったこと。それでもB-29は墜ちなくて、最後には多くの仲間たちが体当りをかけて死んだこと等を話してくれました。

 その話を聞いているうちに私は、妙な気持ちになってきました。これは、もしかして「屠龍」の話ではないのか。そして数年前に
ネットオークションでの内容に段々近づいてきていることに得も知れぬ不思議さを感じていました。もしかして・・・と。

 そして仏壇に案内された時に、仏壇の中の遺影の側になにやら相応しくないものが飾ってありました。そう、見慣れた食玩です。それはやはり「屠龍」という双発の戦闘機でした。

屠龍仏壇.jpg

  まさか!と思いました。私は数年前の息子さんたちのことを思い出したからです。住所は違うが、もしかしてご本人!?と思い、失礼ではありましたが、更に根掘り葉掘り聞いてしまいました。

 結果的には
ネットオークションで取引した方のどちらでもなかったのですが、その方は、東京と茨城県の方とは面識はまったくなく、その方も同じように亡くなったお父さんの墓前に飾るために食玩の「屠龍」を入手していたのです。二度ある事は三度あるではありませんが、思わぬ偶然に唖然としてしまいました。

 後で詳しく調べたとこと、松戸の「屠龍」の部隊は、第53戦隊という部隊のようで、その戦歴もお父さんたちの証言と同じのようです。
 第53戦隊は三つの飛行隊からなり、夜間防空が主任務としており、配備された戦闘機は「屠龍」が25機前後と、百式司令部偵察機が数機配備されています。
 すべて、斜銃を搭載しており、米軍機の本土空襲に備えていました。

 東京の方の所属は聞くのを忘れてしまって分かりませんが、少なくとも茨城県の土浦と千葉県の松戸の二人のお父さんたちは松戸の第53戦隊で知り合いだった可能性が高いと思います。
 それにしても奇しくも、三名の息子さんたちがそれぞれ、思い思いに「屠龍」という名の戦闘機を求めることになるとは・・・。
 それにすべて関係させていただいたことに深い縁を感じました。

 たかが食玩、おもちゃの類ではありますが、「屠龍」という飛行機が結んだ縁という不思議さに得も知れぬ感動を覚えました。こんなことってあるのかと。

Cap 280のコピー.jpg


 三人のうちの土浦市と松戸市の二人のお父さんに共通していることは、戦争中のことは家族にはほとんど話したことがなかったそうなのですが、死期が近づく数年前からしきりに戦争中の体験を家族に話していたそうなのです


 自分の死を予感してなのか、若い青春時代のあの時のことを懐かしがり、それぞれ息子にその思いを語ったということでしょうか。

 「屠龍」という戦闘機は、1,700機ほどの生産機数で、零戦や単座戦闘機に比べると、それほどメジャーな機体ではありません。いえ、むしろ一般の人で知っている方はそういないと思います。息子さんも私が「屠龍」という飛行機を知っていることに驚いていました。
 そして、斜銃を搭載して迎撃任務についたのは敗色濃厚の昭和19年のことです。僅か一年余りの活躍の話が息子さんたちの一番の印象に残り、三人が三人とも、その飛行機を求めるとは。う〜ん、「屠龍」という戦闘機には、なにかあるのでしょうか。
 本土防空とB-29への迎撃戦というインパクトがあるのかもしれません。また、この『双発機コレクション2』が発売されたのが2007年でしたので、戦後60年ぐらいということもあり、ちょうど亡くなられる方や、何回忌などのタイミングもあったのかもしれません。それにしても・・・です。他にも月光、零戦、紫電改など有名な機体はいくらでもあるのに。


 仏壇に飾られた「屠龍」をみるにつけ、なんともいえない不思議な感覚に満たされました。仏壇に故人の生前の思い出を飾るのはたまに目にします。しかし、戦争の兵器でもある飛行機を飾る・・・。
 故人の一番輝いた青春の時代が、悲しい戦争という時代。しかし、それが一番深い思い出であったのも確かなのでしょう。これもまた、ひとつの慰霊のかたちなのかなと思いました。

 模型の製作は、単純に製作することの楽しみを味わうことも大切ですが、その設計者、技術者たちの思いなども伝わってきます。またそれを実際に使用した人たちのことも思いを馳せることも大事なのかなと思います。

 さて、模型にまつわる不思議な話を私自身も学生時代にしましたので、そのエピソードも次回に記して、今回の奇譚話を終えたいと思います。 

 

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コメント 7

johncomeback

拙ブログへのコメントありがとうございます。
僕も「事実は小説より奇なり」を何度か経験しています。

by johncomeback (2015-08-02 20:37) 

desidesi

永遠のゼロみたいな話は
本当に無数に存在するのかも知れませんね。
by desidesi (2015-08-02 22:59) 

アニ

この飛行機は初めて見ました。しかし縁という言葉だけでは説明出来ない何かがありますねー
by アニ (2015-08-03 00:13) 

ハマコウ

不思議な話ですが そのようなこともあるのだろうなと思います。
何気なく見過ごしてしまう食玩の模型にものすごい思いを寄せている人も多いのですね。
by ハマコウ (2015-08-03 05:31) 

ロートレー

首都防空戦で使命に燃えて、命を削ったかたがたとの不思議な縁ですね!
by ロートレー (2015-08-03 08:35) 

駅員3

これはいいお話を伺いました。
僕ももっと少年飛行兵だった父や、職業軍人だった祖父に戦争のお話しを聞いておけばよかったと後悔しています。
父とは酒を酌み交わすこともなく、本当に残念です。
by 駅員3 (2015-08-04 15:37) 

ワンモア

★johncomeback さま
 こんばんは~、今度ブログで読ませてください。そういう不思議な話、大好きです^^

★desidesiさま
 そうですね。時間の流れの中で埋もれないで欲しいと思います。

★アニさま
 偶然も三度重なるとちょっと怖いというか、何者かに動かされている感じがします^^;

★ハマコウさま
 こんばんは〜。たまたま「屠龍」という珍しい飛行機でしたので、妙に不思議な感じがします。

★ロートレーさま
 屠龍の首都防衛戦は、子孫の方々にもかなり印象的な話だったのかもしれませんね。

★駅員3さま
 こんばんは〜。戦争時の話はなかなか語りたがらない人もいると聞きましたが、息子さん(といってもかなりのご年配ですが)のお話が聞けて大変良かったと思いました。
by ワンモア (2015-08-05 00:50) 

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