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大戦に間に合わなかった傑作機、スパイトフルとF8F

 優秀でも試合に出ていないと人気が出ないアスリートのように、成果が確実視されていても戦争そのものが終わって活躍できなかった戦闘機たちがいます。
 戦争がいつ終わるか確実でない以上、技術者たちは兵器開発を止める訳にはいきませんので、こういう運命を背負う飛行機たちは必ず存在するのですが・・・。
 戦争終結は、なにより優先ですので喜ばしいことですが、
今回は、そのように活躍の場を失い、成果を出せなかった悲運の戦闘機の話を。

 ●生産機数わずか16機。スピットファイアの後継機スパイトフル

Cap 142.jpg
スーパーマリン スパイトフル(ウィキペディア)


 バトル・オブ・ブリテンでは救国の戦闘機として大活躍したスピットファイアも、戦場の部隊がヨーロッパ本土に移るとP-51Dムスタングなどの米軍機にその主役の座を譲ります。

 しかし、その間にも、着々と性能は向上し続け、特に従来のマーリンエンジンからグリフォンエンジンに換装した
Mk. XII(12)は、わずか8分で高度1万メートルに達することができ、水平飛行で約640km/hの速度に達することができました。
 しかし、いかんせん原型が1936年と古く、1944年のMK21以降は徹底的な改修を行います。スピットファイアの特徴的な楕円翼もこの時に変更になるのですが、新設計の主翼は従来の胴体にはうまく合わず、胴体も新設計にして、結局、最初から新設計した方が早いということになり、スピットファイアとは別のスパイトフルという新しい戦闘機として名付けられることになります。

スパイトフル.jpg
(左)スピットファイア (右)スパイトフル

なーんか、スピットファイアの面影がまったくなくなってしまいましたね。
Cap 143.jpg

 スーパーマリン・スパイトフルの初飛行はドイツの敗戦間近の1945年1月です。この機体は760km/hという高速性能を示し、さっそく英国空軍は早速650機の発注を行います。
 また空母の搭載向けの艦上機型も開発指示し、こちらの機体はシーファングと名付けられています。違いは、スパイトフルの5枚プロペラに対して、3枚の二重反転プロペラを採用したところでしょうか。
Cap 146.jpg
スーパーマリン シーファング(ウィキペディア)


 これによってスピットファイアの後継機としてのスパイトフル、シーファイア(スピットファイアの艦載機版)の後継機としてシーファングが見込まれることになります。

 しかし、ヨーロッパの戦争は5月8日に終結。最初の生産機が初飛行したのが4月2日だったこともあり、発注数は390機へと激減。更には58機→最終的には16機に減らされてしまいました。
 大戦が終結して必要数が減ったことと、時代はジェット戦闘機へと移りつつあることが原因です。
 艦載機版のシーファングも、ジェット化のつなぎとしては、安くて実用性の高い
ホーカー シーフューリーが適しているとの判断で、こちらも150機→18機のみになりました。
 ちなみにホーカーシーフェリーはホーカーテンペストの軽量小型化の艦載機改設計型です。

 レシプロ戦闘機の極限に近い高性能を誇ったスパイトフルも戦争の終結とジェット機の台頭という現実を前にしては、量産価値を見出すのは困難であったという訳ですね。
 こうしてスピットファイアの血統を受け継いだスーパーマリン社のレシプロ戦闘機は消滅していくことになります。
 なお、スパイトフルの主翼ですが、そのままイギリス海軍初の艦上ジェット戦闘機であるスーパーマリン アタッカーに流用されることになります。

Cap 147.jpg
スーパーマリン アタッカー。主翼がそのまま使われています。


最後にイギリス戦闘機の系譜をまとめてみました。ハリケーン、スピットファイア系、タイフーン系と大別できます。
Cap 148.jpg

 
●戦争には間に合わなかったけど平和の空で大活躍。F8F。

Cap 1,046.jpg
アクロバットチームやエアレースで大活躍。


 一方アメリカの方も、実戦に間に合わなかった戦闘機があります。こちらは、大量生産ラインに乗り、空母に積んでいざ実戦投入という段階で終戦になったF8Fベアキャットです。

 全長8.61m、全幅10.92mと零戦よりも一回り小型の機体で、2,100馬力と、エンジン出力が零戦の2倍近いという高性能機。
 開発も1943年11月からスタートし、その9ヶ月後には初飛行、そして6ヶ月後には最初の生産機がロールアウトという、アメリカの本気の工業力を見せつけた機体となりました。
 性能は、本気のアメリカ海軍が開発したので米陸軍のP-51と並び最強のレシプロ戦闘機、艦上戦闘機と評されることもあります。
 折しも時代はプロペラ機からジェット機への移行期間でせっかくの高性能機もわずか1,300機あまりで生産が終了(F4Fは約7,700機、F6Fは約12,300機)、一度も太平洋戦争の実戦に使われることなく、その多くの数の機体が民間に払い下げられるかたちになった悲運の飛行機です。

 また、未使用でこれだけ高性能機ですから、アクロバットやエアレース用の機体として一躍大人気に。現在も大規模な改造を施された機体がアメリカの空を飛んでいます。
 20機にも満たない高性能機スパイトフルに比べて、第二の人生を歩めたベアキャットは、ある意味幸運だったかもしれません。 


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コメント 4

johncomeback

拙ブログへのコメントありがとうございます。
今回も興味深く拝読させていただきました。
ベアキャット、現在もアメリカの空を飛んでるとは驚きです。

by johncomeback (2015-05-15 20:33) 

ロートレー

何か人生にもたとえられるような内容で読みふけってしまいました。
スパイトフルの主翼が次代のジェット戦闘機の翼として生き残った話も興味深いお話ですね
by ロートレー (2015-05-15 21:05) 

タイド☆マン

スパイトフル 
初めて知りました 勉強になります☆
箱絵でしょうか ソ連の飛行機みたいですね

>空耳
「アワビ喰える?」
聴こえましたか(笑) 
実はコレ すでに投稿されたモノでして
毎日の様に聴いていた曲が TVで流れてきたトキ
俺はなんで聴こえないんだ?と ショックを受けました(笑)
こうゆうモノは柔軟な頭を持っていないとダメなようです
by タイド☆マン (2015-05-16 04:10) 

ワンモア

★ johncomeback さま
 最新鋭機を民間に払い下げる。うーん、流石アメリカって感じですよね。

★ ロートレーさま
 ありがとうございます。ちょっとエッセイ風にしてみました。

★ タイド☆マンさま
 マイケルは空耳アワーによく取り上げられていますよね(笑)

by ワンモア (2015-05-17 19:15) 

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