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全翼機にかけた情熱その1〜ホルテン兄弟の夢〜

 製作にとりかかったホルテンHo229ですが、その特異な姿は非常に魅力的なのです。
全翼機といって、垂直尾翼や水平尾翼などといったものがありませんし、胴体の形状すらありません。そう、全体が翼そのものなのです。1枚の主翼のみによって機体全体が構成された飛行機なのです。

 なぜ、このような機体が開発されたか。それは、圧倒的に空気抵抗が少ないというメリットがあるからで、飛行するのに最低限の構成要素だけなので重量が軽くなるのです。
 また現在においては、ステルス性という点においてもメリットがあることが注目されています。

 しかし、設計上の困難が多く、完全な実用機になったものは現在のところアメリカのB-2のみです。

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一機あたり2000億円!!
ギネスブックにも登録された世界一高い飛行機 B-2

  利点は多いものの、全翼機がなかなか実用化されなかったのは、その操縦性の困難さが一因でした。
 しかし、近年、操縦・飛行制御システムであるフライバイワイヤシステムが開発されたのと、ステルス性が重視され始めたことから一気に開発が加速されたのです。
 しかし、このB-2の初飛行の45年以上前にすでにドイツでは、この全翼機の設計と開発がスタートしていたというからドイツの技術、恐るべしです。

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【時代を先取りしていたHo.229 架空戦記の1/144】

◆ホルテン兄弟の情熱

Horten_brothers.jpg

 ホルテン兄弟は、当時のドイツで盛んだったグライダー競技会の少年部門で3年連続優勝するほどの腕前でした。このホルテン兄弟は実は4人の兄妹なのですが、有名なのが次男のヴォルター、三男のライマールです(長男のヴォルフラムは1940年の5月に戦死)。
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936年、ドイツが再軍備宣言をすると兄弟は新生ドイツ空軍に入隊し、次男のヴォルターは情報士官パイロットとして、三男のライマールは飛行教官として任官します。

 二人は士官勤務の傍ら、1936〜1938年の間にHI〜HVの数々の全翼機を開発します。

ホルテンⅢ.jpg
ホルテン兄弟が開発した全翼滑空実験機 H(ホルテン)Ⅲ
『世界の傑作機 Me163』(文林堂)より

 この開発には、アレクサンダー・リピッシュ博士の指導があったのですが、この博士、無尾翼機の研究開発の権威で、かの有名なMe163の機体の設計者でもあります。
 流体力学者の先駆で、特に無尾翼機、デルタ翼機、地面効果翼機の分野において重要な貢献を果たしています。

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兵器としての実用化に至るまでは今一歩のMe163

Lippisch LiP13a_artbig.jpg
http://www.jetfly.hu/rovatok/jetfly/cikkiropalyazat/palyazat_04.10.25./

尾翼が飛んでいるとしか見えない^^; 
リピッシュ P.13a


 さて、戦争が勃発して1941年のこと兄のヴァルターが戦闘機査察技術部という部署へ配属になると、弟も呼び寄せ、兄弟揃って全翼機の開発に取り組むことになります。
 1943年、ヘルマン・ゲーリングは3×1000計画
(Projekt 3000)を発動します。
 これは時速1,000km/hで1,000kgの爆弾を搭載、1,000kmの航続距離をもつ爆撃機を作るというものでした。
 ホルテン兄弟はこの計画に「ホルテン9計画」で応募します。
 1944年3月には無動力タイプのホルテンⅨ(9)のV1の初飛行が成功、1944年12月にはユモ004ジェットエンジンを搭載するV2を完成させます。このV2が満足する性能と安定性を見せたことより、空軍はHo229として制式化することにしました。
 ホルテン兄弟の長年の全翼機の技術開発が実ることになりました。

 量産は、ゴータ社とクレム社に量産を発注、戦局を覆す可能性を秘めた兵器ということで、様々な派生型も計画されます。
 しかし生産途中でドイツは敗戦、Ho229は未完成のままその生涯を終えることになりました。
 一番完成度が高かったV3はアメリカに持ち去られています。

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【スミソニアン博物館に保管されているHo.229】


 戦後の兄弟ですが、兄は西ドイツで新生ドイツ連邦空軍の将校として、弟のライマールはアルゼンチンに移住し、航空機開発を継続しますがこれは商業的には成功しませんでした。

 二人の夢はここで終わるのですが、この前衛的なHo229の可能性を検証すべく、64年後の2009年に
ナショナル・ジオグラフィックはこのHo229そのものを復元する特別番組を制作するのです。

→YouTube【HD】Stealth Fighter - Hitler's Secret Weapons Recreated

 アメリカのノースロップ・グラマンの協力により本機の設計図を元にレプリカを作製してステルス性を検証し、当時のイギリス軍レーダー網に対する十分なステルス性を確認したのでした。

 この番組では、当時のドイツの技術力がジェット機の潜在能力を解き放つかなりの水準にまで達していたことがわかったとしています。

element06.jpg
全翼型によるレーダー波の投影面積の縮小と、

塗料に炭素粉を使用してステルス性能を実現。


全翼機の不安定さを
主翼上下面のドラッグラダーを開発することで
有尾翼機におけるラダーの役割を担うようにしています。


Horten Ho 229A (V3)スペック

  • 乗員:1名
  • 全長:7.47 m
  • 翼長:16.76 m
  • 全高:2.81 m
  • 翼面積:50.20 m²
  • 自重:4,600 kg
  • 最大離陸重量:6,912 kg
  • 動力:ユンカース Jumo 004B-1 ターボジェットエンジン(推力900kg ×2)
  • 最高速度:977 km/h
  • 戦闘行動半径:1,000km
  • 航続距離:1,300km
  • 上昇限度:16,000 m
  • 上昇率:22 m/s
  • 固定武装:30mmMK 108機関砲×2
  • ロケット弾:55mm R4M
  • 爆弾:500 kg ×2 
 二人の全翼機の実用化の夢は、アメリカへと引き継がれることになるのですが、アメリカでも全翼機の取り憑かれた男が現れます。
 その人の名は、ジャック・ノースロップ、航空技術者で全翼機の実用化のために会社を創設してしまうほどの熱狂ぶりでした。

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コメント 3

楽しく生きよう

たくさんのコメントありがとうございました。
参考になるコメばかりで助かります。

全翼機は垂直尾翼がないのによくバランスが取れると感心しています。
B2の機械による制御が人間を助けてはじめて実現出来たと言う説明に納得しました。

ドイツはアイディアの宝庫でしたね。
今後の日本もそうあって欲しい。
by 楽しく生きよう (2015-07-12 08:40) 

dumbo

ワンモアさま、こんにちは。
ほんとにとぶのかって思ってしまうのですが、
全翼機かっこいいですよね。
以前鳥人間コンテストで、
全翼機を毎年連続して作られている方がいて、
すばらしいなぁと思っていました。
by dumbo (2015-07-12 11:04) 

ワンモア

★楽しく生きようさま
水平尾翼よりも垂直尾翼の重要性が高いようです。

★dumboさま
鳥人間コンテスト、実は学生時代に出場する予定だったのです。ハンググライダーを習いに行きました^^

by ワンモア (2015-07-12 18:20) 

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