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機外への脱出方法あれこれ

 昨日の11日はMRJの初飛行だったので、急遽ブログにアップしました。優雅な綺麗な機体でしたね。無事に成功してなによりです。
 さて、前々回のパラシュートの歴史についての続きを再開することにします。おめでたい話の後で、万が一の脱出の話で恐縮ですが^^;

◆射出座席の開発

 飛行機から脱出するためのパラシュートは、第二次大戦下では多くの搭乗員の命を救うことになります。とはいえ、機外へ脱出する際の事故もしばしば発生していました。
 脱出の際には風防を吹き飛ばし、自力で機外に出るのですが、これが結構大変。
 空気抵抗というのは速度の2乗で効いてきます。速度が2倍になれば、体に受ける抵抗は4倍ということなので、脱出する際の速度が早ければ早いほどパイロットは風圧で機内に押し戻され、脱出するのが困難になるのです。
 どの位大変なのかはこちらの映像をご覧ください。開始2分のところからです。



 また運良く脱出できたとしても、尾翼にぶつかって意識不明になり、そのまま落下する事故も起きていました。かの有名なドイツのエース「アフリカの星」ハンス・ヨアヒム・マルセイユも機外脱出の際に尾翼にぶつかる事故で死亡しています。

 という訳で、戦闘機などの速度が上がるにつれ、脱出のリスクも増大し、新しい脱出システムを開発しないといけなくなってきました。
 こういう時にいち早く研究と実用化にこぎつけるのがドイツです。世界初の射出座席を搭載した飛行機はハインケルHe280V-1ジェット戦闘機でした。
 実用化された飛行機で初の搭載は夜間戦闘機として有名なハインケルHe219ウーフー。圧縮空気ボンベによって、操縦席、後部座席が独立して射出される仕組みになっていました。 

Cap 524.jpg
ミミズク(ウーフー)の愛称のHe219。造形村1/32スケール

 かたやイギリスでも本格的に研究に取り組んでいました。マーチン・ベーカー社では、大戦中から開発を行っており、現在でも射出座席の代表的メーカーのひとつです。
 戦後は、くまなくジェット化が進みましたので、アメリカでも射出座席を開発していきます。

Cap 525.jpg
1/32のF-104の射出座席のプラモデル!これ欲しい^^

 現代の射出座席は大きな進化を遂げ、高度ゼロ、速度ゼロの状態でもパラシュートが充分開くまパイロットを打ち上げるようになっています。また、打ち出す推進装置も火薬からGが小さいロケットモーターになっています。

 こうして安全性は高まりましたが、それでも民間に応用するところまではいかないようです。というのも、危険な状態になった機体から素早く脱出するためにパイロットにかかるGは15〜20G。適切な姿勢をとっていないと脊柱を痛めることにも。ベイルアウトで職場に復帰できる可能性は50%とも言われていますので、思ったより安全ではないのです。助かっただけでも儲けものと思わないといけません。
→http://www2m.biglobe.ne.jp/~ynabe/mach/bailout.htm
 
射出時の噴射炎による火傷、加速による脊髄の損傷、風圧による骨折、上空による凍傷や低酸素の影響、着地の損傷、着水の遭難等など多くの危険が伴います。

Cap 530.jpg
民間に応用するには難しい?

 ですので、たとえ民間航空機に装備しても空中に放り出された乗客が大怪我をしたり、時には死亡してしまうリスクが高いとのこと。とくに洋上の場合は、脱出せずに不時着した方がまだ安全性が高いらしいのです。ということで、民間の旅客機などに射出座席やパラシュートは搭載されていません。


◆ヘリコプターでは射出座席もパラシュートも搭載していない?

 ヘリコプターでも射出座席の計画もあったのですが、ネックになるのは、メインローター。実際問題として、脱出装置が必要なほど速度もないため開発されていないというのも理由のひとつです。その代りヘリの場合は”オートローテーション
(エンジンが停止しても風の力だけで揚力を得ながら着陸する技術)”という不時着技術があるそうで。
 AH-64などは「高度20mからの落下でパイロット生存率80%以上」という条件下で開発されています。頑丈なのですね。ヘリは低空任務が多いので、パラシュートで脱出というのも現実的でないのかもしれませんね。

1280px-AH-64A_Apache_Greek_Army_Stefanovikion_5 copy.jpg
AH-64

 

何故、旅客機ではパラシュート常備着用しないの?

 航空機の事故が起こると、毎回のように出てくるのは、「旅客機にもパラシュートを積んで乗客が脱出できるようにすればいいじゃないのか」という意見。
 私も子供心に思ったりもしました。特に1985年に発生した日航123便墜落事故の場合は、緊急事態が発生した後も30分近く飛行していたことから、この間に脱出すれば大勢の命が助かったのではという意見も耳にしたことがあります。

 果たしてそれは可能なのでしょうか。現在のパイロットたちの射出座席では衝撃が大きく、乗客全席に装備するのは到底不可能としても、パラシュートで飛び降りればなんとかなるのではないかと思う人も多いのではないでしょうか。

 しかし、これも、以下の理由により極めて困難であると言えます。

(1)高度の問題
 旅客機の飛行高度は1万メートル。気温はマイナス55℃の極寒の世界です。もし、ここで機外に放り出されたら地上に下りるまでに死んでしまうでしょう。パラシュートで降下する安全な高度は3千メートル以下(空挺団が実施している高度は300mあたり)なので、そこまで高度を下げないといけません。
 また機内は与圧で守られています。いきなりハッチを開けることは急減圧になり、旅客機にとっても最も危険な行為です。スカイダイビングをするヘリにしても飛行機にしても地上からドアを開けているのは与圧がかかっていないからです。

concorde.jpg
快適な空の度も完全密閉の与圧の中だからこそ。


(2)速度の問題
 パラシュート降下には、適正速度というものがあります。先ほどの空気抵抗は速度の二乗に比例しますので、できる限り速度を落とすことが望ましいのですが、ジェット旅客機がそこまで速度を落とすことは逆に失速を招きかねない可能性があります。
 失速しないようにするには最低でも300km/hは欲しいところ。300km/hの新幹線の屋根の上に乗ってみたらその風圧の凄さが分かるのではないでしょうか。

Cap 532.jpg
空気抵抗は速度の二乗に比例します。


(3)時間の問題
 飛び降りるにしても、お互いのパラシュートが絡まないように時間をおいて一人づつ飛び降りないといけません。パラシュート降下させる場合、乗客にパラシュートを装着させて、全員が飛び降りるまで、一体どの位の時間がかかるのでしょう。仮に一人10秒かかり、200人の乗客がいた場合でも最低30分はかかります。その間、緊急事態に陥っている飛行機はパラシュートに最適な速度と高度を保ちつつ飛び続けなくてはいけないのです。

Market-Garden_-_Landings.jpg
マーケット・ガーデン作戦で降下する連合軍第1空挺軍
おそらくこの位の規模でになるでしょう


(4)乗客の問題
 そもそも訓練もなしに飛び降りることは可能でしょうか。赤ちゃんは?老人は?スカイダイビングのような真似ができるでしょうか。ハーネスもその人の体型にあったものを装着したり、調整しないといけません。緊急事態にそんな余裕があるのでしょうか。

(5)事故が発生する場所の問題
 航空事故の8割は離発着時に発生します。ということはパラシュートが開くまでにかかる高度と時間が足りないケースが殆んどなのです。この間に何百名もの乗客が脱出するのは現実的に可能でしょうか。
 制御不能になった機体の中で上記のこと(誘導・装着・降下)をすべて行うことは現実問題として不可能であるといえます。

Dash_8_2007-3-13_Kochi_Airport.jpg


(6)コストの問題
 
それでも、万が一のことを想定してパラシュートを旅客機に装備するとどうなるでしょうか。パラシュートの重さは体に装着するハーネスまで入れると約20kgにもなります。高い所から飛び降りるには更に酸素マスクも装備しないといけません。フル装備を用意すると、子ども一人分の体重に近い重量になり、全員分ともなると数トンにもなります。当然燃費は悪くなり、運賃は数倍に跳ね上がるでしょう。


 こう考えていくと、現実的でないなということが容易に想像できますね^^;


それでも助かりたい(と思っている)方へ
 考えられる唯一可能なケースですが、これは個人的に飛び降りるケースしかないのではと思います。
 事前に何回もパラシュート訓練をしておいて、機内に自分専用のパラシュート(機内持ち込み可能サイズと重量であることが条件ですが)を毎回持ち込み、緊急事態が発生したら、制止する乗務員の言うことを一切無視して、テロ犯の如く乗務員を脅し、与圧がかかっているドアを強引に開け(シートベルトをしていないとものすごい気圧差で機外に放り出されますが)、
他の乗客を更なるパニックに陥れ、自分一人だけが脱出するということになると思います・・・。
 それで万が一助かったとしても緊急事態の旅客機を更に危険にさせた罪に問われることは間違いないとは思いますが・・・。うーん。

 以上のように旅客機からパラシュートで脱出というのは机上の空論にかなり近いことがお分かりかと思います。
 それでも何とかならないの?というのも分かりますので、色々と自分自身も考えたこともありました。
 脱出するよりも、地上にぶつかった衝撃の緩和装置とか、旅客機自体に巨大なパラシュートをつけるとか(現実に軽飛行機では存在します)・・・・。

 学生時代には、サンダーバード2号のように乗客がコンテナのような場所に乗り、緊急時には、コンテナが切り離されてパラシュート降下できないかなんて考えてもみました。地上に向けての噴射装置をつければ、高度が足りなくてもなんとかなるのではないかとも。
 いわば脱出艇のようなイメージなのですが。

51BSY2WF1JL.jpg
サンダーバード2号。今見ても斬新なスタイル

 コンテナは自走式にすれば、ボーディング・ブリッジもいりません。そのまま飛行機本体の近くまで自走し、コンテナよろしくドッキングすれば便利かなと^^;
 海上に着水してもフロートが作動して浮くようにすれば、パラシュート降下よりも安全です。
なんて妄想も。

 まあ、なんだかんだ言っても、航空機は確率的にも一番安全な乗り物とも言われておりますので、必要以上に恐れることはないと思うのですが、安全面に関しては考えることを止めてはいけないのかなと思います。
 各航空会社もコスト削減だけでなく、こういう安全面、特に整備面などにも智慧を絞って欲しいなと思うのです。

 トレーニング用のパラシュート。こんなのあるんですね。

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コメント 8

タイド☆マン

TB2号のコンテナの案は好いと思います☆
話は変わりますが
タミヤのHPに「下地で変わる銀色の塗装表現」という
面白い塗装例が載っています 
お時間があれば・・・

by タイド☆マン (2015-11-12 19:56) 

ちょいのり

旅客機は・・・諦めるしかないですよねw
覚悟して乗りたくは無いので安全飛行お願いいたします!

by ちょいのり (2015-11-13 01:19) 

タイド☆マン

トイザラスにTBコーナーがありましたよ☆
先月ですか 国営放送で新作を放映していましたね
by タイド☆マン (2015-11-13 05:51) 

駅員3

そうそう、僕も小さいころなんでライフジャケットはあのにパラシュートは装備しないのか、疑問に思っていたことを思い出しました(^^)
by 駅員3 (2015-11-13 07:58) 

desidesi

サンダーバード2号は、
子供の頃、一番憧れの乗り物でした〜♪(๑◔‿◔๑)
by desidesi (2015-11-13 09:06) 

johncomeback

今回の記事もとても面白く拝読させていただきました。
サンダーバード、2号が大好きでした(^^)ニコ
by johncomeback (2015-11-13 13:24) 

bpd1teikichi_satoh

ハインケルHe219ウーフーは爺の好きな夜間戦闘機
です。然しハインケルとナチスとが不仲だったので、
不運の夜間戦闘機に成ってしまいました。
リヒテンシュタインレーダーを機首に装備し、少数生産
されたHe219A-6,A-7は英空軍のモスキトー要撃用として
活躍しました。
by bpd1teikichi_satoh (2015-11-13 15:56) 

ワンモア

★タイド☆マンさま
サンダーバード、TBと表記するとなんかカッコいい!
タミヤのHP、見てみます^^

★ちょいのりさま
自動車事故よりも低いですから安心してご搭乗ください^^

★駅員3さま
みんなが一回は疑問に思うのではないでしょうか。
そしてよく考えたら難しいことも^^;

★desidesiさま
サンダーバード2号ってなんか夢がありますよね。
国際救助隊っていい響きです^^

★johncomebackさま
サンダーバードの歌って「サンダーぁ〜バードーぉ〜」しか覚えていないのです(笑)その続きってなんでしたっけ?

★ bpd1teikichi_satohさま
ハインケル社は不運の会社でしたね( ˘•ω•˘ )
ロベルトルッサー技師については、色々調べていますので、
近いうちにエッセイにまとめたいと思います^^


by ワンモア (2015-11-13 20:07) 

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