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自動車王が作った航空機〜フォード5-ATトライモーター旅客機


フォード5ATトライモーター.jpg
フォード5ATトライモーター(1990.3〜4月掲載)

 さて、本年一発目のヒコーキ記事は、やはり"SUBARU世界の名機カレンダー"からでしょう^^
1月〜2月のカレンダーは、”フォード5-ATトライモーター旅客機”です。

 フォードと銘打っていますが、そうなのです。あの自動車のフォードなのです。車のフォードは有名ですが、実は航空機の分野にも手を出していたのです。

Cap 674.jpg
1908年に発売され1,500万台以上が生産されたT型モデル


 この車は、自動車という存在を世界中に広げただけでなく、労働、経済、文化、政治などの各方面にも計り知れない影響を及ぼし、20世紀前半の社会に多大な足跡を残した存在という評価を受けています。
 当時は高嶺の花だった自動車というものを、フォードはライン生産方式による大量生産開発を採用し、アメリカの中流家庭が購入できるところまで自動車を身近なものにしました。
 1908年当初は4,000ドルもした車が、わずか8年後には、1/10以下の360ドルという価格から購入できるようになったのですから凄いことですね。ちょっと前のパーソナルコンピューターのようです。

200px-Henry_ford_1919.jpg

 創設者のヘンリー・フォード氏(1863〜1947)→

  このようにフォード・モーター社の社長として、自動車業界で大成功を収めていたフォード氏は、1925年には航空機業界へと進出していくことを計画しました。
 第1次世界大戦(1914〜1918)下で、航空機のエンジンを製造していたこともあり、戦後は航空機事業が流行ることを見越していたのかもしれません。

 フォードを飛行機の世界へ導いたのはウイリアム・バシュネルスタウトという小さな飛行機会社の所有者でした。
 彼はフォードの興味を掻き立てることに成功し、1925年、自分の所有する
スタウト金属飛行機会社(Stout Metal Airplane Company)をまるごと買収してもらうことに成功します。
 フォードは今までの木製複葉の飛行機ではなく、スタウトの金属製の飛行機に将来の可能性を見出していたのです。
 T型フォードのような、革命的な工業製品化を、次なる航空機業界で狙っていたのかもしれませんね。

 フォードはさっそく、スタウト社の2-AT単発郵便機を大型化三発化に再設計し直しさせます。この機体は3-AT
機と呼ばれていますが、出来はひどく、大失敗といえるものでした。
 フォードは当然激怒、スタウトを設計主任から外し、別の技師に替えるのですが、実はこの時にマサチューセッツ工科大学を卒業したばかりのジェームス・スミス・マクドネル(F−4ファントムで有名なマクドネル
社の社長)も加わっているのです。
 フォードもまさか、若いマクドネルが、後の
マクダネル・ダグラス社の会長にまで上り詰めるとは想像もできなかったことでしょう。

 完成した機体は4-ATと命名され、1926年に無事に初飛行するのですが、この機体、外見が有名なフォッカー三発機
F. Ⅶb-3m(1925初飛行)にそっくりなのです^^;
Mittelholzer-fokker.jpg
フォッカー F.VII

 両者は木製と全金属という点が最大の違いなのですが、それ以外の外見は瓜二つ。操縦席から三舵まで操縦索をつなぐ方式まで同じだったといいますから模倣と言われても文句はいえないかもしれませんね。
 何をどう思って設計したのでしょうか・・フォードの逆鱗に触れ、次の失敗は許されないというプレッシャー?

 さて、それはともかく4-ATは性能良好で、早速アメリカ国内で使われて旅客輸送を開始しました。時代は折しもリンドバークの大西洋横断飛行の成功で飛行機の関心が高まっている時期でしたので、順調に生産は進み、この滑り出しの良さに乗って、300馬力から420馬力へと、エンジン強化型の5-ATを開発します。使用した航空会社は100社を超え、舞台は世界へと拡がっていきます。


 フォード車は大量生産ラインを確立させたことでも有名ですが、この飛行機もそれに相応しく、1日1機の生産を目指していました。

 波板構造の外板を見ると、ユンカースJu52を思い出します。無造作にぶら下がったむき出しのエンジンが時代を感じますね^^;
Cap 675.jpg

 主翼から下がっているタラップのような構造が見えますが、これ貨物室だそうです!っ゚д゚)っ

Ford_5-AT-B,_McMinnville,_OR.jpg
オシャレでモダンな客室^^

 木目調の室内やカーテンなど、今でも復活して欲しいデザインですね。

◆小池氏の描く5-AT
 
さて、小池氏のカレンダーの5-ATですが、1990年のカレンダーに掲載されているものの再掲載のものです。エンジンの描写、操縦席内部も細かいですね。
IMG_0501.jpg
この機体は波板構造で、よくよく見ると、ちゃんと表現されており、
まさに驚嘆するレベルの緻密さです。
描くの大変だったんじゃないかなぁ。
IMG_0500.jpg
フォードのマークも今のマークに近いですね^^
IMG_0502.jpg
摩天楼が神秘的です。
IMG_0503.jpg


 5-ATは、エンジン音がうるさいこともあって、ブリキのガチョウ(Tin Goose)と呼ばれていました。
 1926〜1933年までに199機が生産され、ほとんどのアメリカのエアラインが購入して、航空機業界でも成功を収めたかのようにみえたフォードでしたが、強力なライバルが出現してきます。

 車でいうところのシボレーやクライスラーのようなものなのでしょうか。ボーイングやダグラスなどの新鋭機が続々と参入してくるのでした。

 フォードの5-ATの弱点は、なんといっても巡航速度182km/hという低速度。ボーイング247(最大巡航速度304km/h)やダグラスDC-2
(同じく最大巡航速度304km/h)などの新鋭機に太刀打ち出来なくなってきました。

Boeing_247&DC-2.jpg
ボーイング247(上)とダグラスDC-2(下) 

 更には1929年に始まった世界大恐慌・・。このような条件が重なり、販売も思わしくなくなって、フォードは航空機開発からすんなり撤退していくことになります。
 元々、自動車の開発こそ我が人生の人であったフォードですから、飛行機の世界はイマイチ魅力を感じていなかったかもしれませんね。
 航空機設計者がそのまま航空会社を設立するパターンが多い業界でしたので、フォードのように経営面だけ見ているのでは、面白くなかったかもしれません。
 この時期は、独立して自分の航空機会社を設立する技師たち、利益を求めて航空機会社を作る経営者など、様々な思惑で会社が出来上がっていく時代でした。
 また航空機産業は、このあたりの時代から進歩が著しくなり、激しい競争を勝ち残っていくためには、資金がたっぷりある国家と手を組んでいかないと厳しい時代でした。それは航空機という存在を軍用機として開発していくことに他ならないのです。航空機開発を軍需産業として扱うことは、平和主義者のフォードとしては嫌気が指したのかもしれません。

 フォードはこの機体の生産だけで航空機業界から撤退、二度と戻ってくることはなかったのです。
 但し、第二次大戦中にはその生産能力が買われてB-24爆撃機の生産を受託しており、本家やライバルのダグラス社をはるかに上回るペースで量産を続けたといいますから、「大量生産技術のフォード」の面目躍如といえます。

Cap 676.jpg


 個人の采配や夢が叶えられた時代、古き良き時代の旅客機たち。こういうレトロな飛行機でのんびり空を旅するのも良いかもしれませんね。
 もちろん安全性まで下げて欲しくはありませんが^^;

 さて、来月のカレンダーは、再び中島航空機へ戻り「九七式1号艦上爆撃機」をご紹介します。


<SUBARU名機カレンダー>
2015年
12月 三式艦上戦闘機、九〇式艦上戦闘機
2016年
1月 アメリカ フォード5ATトライモーター旅客機

2月   九七式1号艦上攻撃機
3月 イギリス スーパーマリン スピットファイヤーMk.VIII戦闘機
4月   艦上攻撃機「天山」
5月 アメリカ カーチスNC-4飛行艇
6月    九七式戦闘機
7月 ドイツ アラドAr196A水上偵察機
8月  一式戦「隼」 
9月 フランス カムス53旅客飛行艇
10月  二式戦「鍾馗」 
11月 艦上偵察機「彩雲」
12月   四式戦「疾風」

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コメント 12

タイド☆マン

疾風は拝見しましたので
10月の鐘馗と 11月の彩雲の画を楽しみに
今年1年 過ごすことにします (笑)

by タイド☆マン (2016-01-02 10:09) 

タイド☆マン

もうそろそろ VF-151もポチッ とします (笑)
by タイド☆マン (2016-01-02 10:13) 

johncomeback

フォードが爆撃機を受託生産していたのは
知っていましたが、オリジナル(パクリ?)機を
開発していたとは存じませんでした。
by johncomeback (2016-01-02 13:34) 

ロートレー

フォード5-ATの眼下の景色の描写は見事ですね
足がすくみそうな雰囲気です~
by ロートレー (2016-01-02 16:57) 

ワンモア

★タイド☆マンさま
 2機目も行きますか^^
 技MIXの出来は素晴らしいですものね(^o^)

★johncomebackさま
 >フォードが爆撃機を受託生産していたのは知っていましたが
おぉ、むしろそっちの方をご存知とは!流石、もとエンジニアさんです^^

★ロートレーさま
 描写が凄いですよね。私、この絵を酒の肴に小一時間ほどやれそうです^^;
by ワンモア (2016-01-02 17:07) 

Hide

ワンモアさん
明けましておめでとうございます!
今年もどうぞ宜しくお願い致します!
素晴しいイラストに目が覚めました@@凄いですね!
by Hide (2016-01-02 20:19) 

ワンモア

★ Hideさま
明けましておめでとうございます^^
本年もよろしくお願いします。
流石イラストレータのHideさま、
小池氏のイラストの凄さがお分かりですね(^o^)
私も見ればみるほど引きこまれてしまいます^^
by ワンモア (2016-01-02 22:56) 

ネオ・アッキー

あけましておめでとうございます
昨年はお世話になりました 今年も何卒よろしくお願い致します
by ネオ・アッキー (2016-01-03 08:57) 

koh925

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします
by koh925 (2016-01-03 09:00) 

ワンモア

★ネオ・アッキーさま
★koh925さま
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします(^o^)
by ワンモア (2016-01-03 14:59) 

駅員3

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします(^_-)/
フォードのトリプレーン・・・確か大昔海外メーカーのプラモデルを作った記憶が・・・

やっと模型少年、記事にしました。
詳細はワンモアさんの記事をご参照ということで(^^;っっ
by 駅員3 (2016-01-03 15:03) 

ワンモア

★駅員3 さま
明けましておめでとうございます〜^^
記事を紹介していただき恐縮です。
「模型少年」、発行時期が時期だけに興味津々でした。
今年もよろしくお願いします(^o^)
by ワンモア (2016-01-03 15:38) 

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