中国大陸で九七司偵→百式司偵で、成功を収めていた陸軍の偵察機事情に較べ、出遅れた感があった海軍ですが、アメリカとの戦争が始まりそうな気配の中、いよいよ専用の偵察機の必要性が出てきたのです。
まずは、陸軍が開発した九七式司令部偵察機を海軍でも採用することにします。これは九八式陸上偵察機と呼ばれ、50機ほど生産され、海軍が陸軍の飛行機を採用した数少ない例になりました。月光の前身である二式陸上偵察機が出来上るまで海軍の主力偵察機として活躍します。
海軍では陸軍よりも複雑な事情がありましたので、多様な偵察機が開発されていきました。目的別に分類してみましたので、ざっと見てみましょう。
■カタパルト発射可能なフロート付きの水上偵察機機が欲しい
●九四式水上偵察機(複葉・複座)530機製造(左下)→後継機として、●零式水上偵察機(単葉・三座)1,423機製造(右下)
零式水偵は、大和などの主力艦船に搭載され、日本海軍の偵察の要ともなった。
■潜水艦用に小さなサイズが欲しい
●九六式小型水上機(複葉複座)33機製造(左下)→後継機として、●零式小型水上偵察機(単葉複座)138機製造(右下)。
■近距離用のフロート付きの水上偵察が欲しい
●九五式水上偵察機(複葉複座)750機製造(左下)→運動性能が良いため哨戒、爆撃、戦闘も可能で、●二式水戦(右下)の誕生のきっかけとなる。→実質的な後継機は次に述べる●零式水上観測機となった。
■着弾観測機が欲しい
●零式水上観測機(複葉複座)750機製造→観測任務の需要が無くなり一代限りで終わったが二式水戦と双璧をなす戦闘機としても活躍した。
■空母からの離発着が可能な高速機が欲しい
●二式艦上偵察機(彗星(左下)の偵察機型)→●彩雲(三座)海軍最速機。398機製造(右下)。
■急降下爆撃も可能なマルチ的な機能を持たせたい
●瑞雲 220機製造。双フロートで250kg爆弾による急降下爆撃も可能な機種統合機。
■敵の制空権下で強行偵察ができる戦闘機よりも早い水上偵察機を!
●紫雲(二重反転プロペラ、フロート着脱、外側フロート引込という新機軸満載)15機のみ。
■敵の制空権下で強行偵察ができる戦闘機よりも早い陸上偵察機を!
●景雲(胴体中央にエンジン2基)試作2機のみ
これ以外に、双発戦闘機として失敗する予兆があったため実戦投入前に偵察機に転向した二式陸上偵察機(後の月光)もあります。
いやあ、こうして並べてみると、すごい数ですね^^;
海軍は広い海洋作戦での多彩なミッションが、多くの偵察機を生み出す要因になったように思います。戦争後半は他国と同様、偵察以外の任務も求められるようになっていますね。
◆他国の偵察機事情
では他国の事情はどうでしょうか。他国では、艦載機の積載数の制限から戦闘機や攻撃機に兼務させることが多かったようです。アメリカのF6F戦闘機は、レーダーを搭載させて、TBFアベンジャーと組んで、大戦攻撃の索敵機としても活躍しています。更には偵察・観測機としてSO3Cシーミュウ、OS2Cキングフィッシャーなどの水上機が有名ですね。
陸上偵察機に関しては双発でパワーのあるロッキードP-38の各型を活かしてそれぞれ写真偵察機に改造しています。『星の王子さま』の著者、サン=テグジュペリの乗機のF-5Bが有名です。
長距離飛行が可能な飛行艇などは、索敵・偵察と兼務で、発見したら攻撃もできる「哨戒機」としても開発されていきます。
いずれにしても各国は、日本ほど偵察機は開発していなかったのが実情のようですね。
◆複座と単座の偵察機の違い
但し、戦闘機の高速性能を活かして偵察機に転用することは各国も行っていました。その場合の任務は写真撮影任務(敵地や基地を写真に納める)が中心でしたが、リアルタイムで報告するような任務にはパイロットが一人でしたので不向きでした。
その場合は、複座の通信士を同行させます。こういう任務の場合は、速度は劣りますが、攻撃機や爆撃機、飛行艇などが投入されることになります。
ドイツのBf109戦闘機も高速を活かした写真撮影の偵察任務機が開発されています。
◆様々な偵察任務
一口に偵察任務といっても実は様々な使命があります。
・写真撮影
敵陣へ奥深く侵入し、敵陣の状況を写真撮影して持ち帰り司令部で分析して作戦を計画。求められる能力は、高速性、偵察員や通信の乗る複座や三座、写真撮影機器。通信機器の搭載、長距離飛行できる燃料搭載など。敵に見つかった場合、高速で逃げ切るか、後部銃座で対抗するかはそれぞれ。
・索敵
敵がいそうな場所へ赴き、長時間滞空し、敵の発見と場所を確定する。そのために速度よりも航続距離が最優先された。敵の索敵機と遭遇した場合は空戦することもある。
・着弾観測
味方の弾着観測射撃のために着弾の状況を常に母艦に打電しなければならない過酷な任務。大艦巨砲主義の思想のために考えられた任務だったが、実際には活躍の場がなかった。
・哨戒
潜水艦や洋上で展開している敵艦船を索敵し、攻撃まで行う。専用の哨戒機も存在。
このように偵察という目的以外にも、戦闘・爆撃などを想定している機体も多いです。陸軍の九八式直接共同偵察機も、前線の地上部隊と緊密に協同して近距離の偵察や観測以外にも、地上掃射や爆撃などの近接航空支援も行っていました。
偵察&戦闘、偵察&攻撃、偵察&兵員輸送、偵察&連絡など、偵察単独任務位の機種の方が珍しいかもしれません。このように偵察機は裏方業ではありますが、戦場を支える重要な任務を担ってたと思います。
◆再び脚光を浴び始めた戦後の偵察機。
さて、このように戦闘機や爆撃機に較べて目立たない存在の偵察機ではありましたが、意外と多様な任務も任されていたこともお分かりかと思います。
しかし戦後は偵察機に再び脚光が浴びることになるのです。
戦後すぐに始まった米ソの冷戦・・。直接の戦争が無くなった代りに、裏では激しい情報戦が始まりました。得た情報を外交の武器として繰り広げられる激しい駆け引き。その情報を得るために数多くの人材と技術がつぎ込まれます。
またレーダーや通信機器などの発達により、哨戒機や早期警戒機という新しいカテゴリの航空機も生まれました(対潜哨戒機自体はWWⅠから存在していた)。
新しい時代の偵察機に求められる性能は、攻撃されないための高々度性能、そして戦闘機よりも早い高速性能です。そして撮影のための高度なテクノロジー機器。
それは、ある意味、戦闘機よりも高い技術を求められていました。最先端の技術が集積した航空機が偵察機となる時代がやってきたのです。
SR-71に関してはミサイルの迎撃でさえ不可能な速度で飛行するので、機体外板は高熱対策が施されており、ほとんど宇宙船と同じ構造さえも有しています。
ここへ来て、偵察機への脚光はピークを迎えることになりました。しかし、その栄光は意外と短いものでした。
次回は、偵察機の次世代について記事にしたいと思います。→続くです。
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今年も内容の濃い記事を快調に更新されていますね~
次は偵察衛星まで行ってしまうのでしょうか
楽しみです!
by ロートレー (2016-01-11 18:04)
ロートレーさま
ご無沙汰しております^^
偵察衛星。ピンポン、当たりです。
長くなりましたがお付き合いください(^o^)
by ワンモア (2016-01-12 20:31)