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ソ連で専用攻撃機がなくなった理由

 さて、前回はイリューシンIL-2の後継機について色々と記事にしてきました。その中で分かったことは、あれだけの活躍した「襲撃機(攻撃機)」というカテゴリの軍用機開発を、1950年以降は後継機開発に力を入れず、ついには開発そのものを止めてしまったことです(戦闘爆撃機などは存在)。
 それはなんと約20年もの間、専用の地上攻撃機を実用化しなかったことからも伺いしれます。ソ連は旧式化した戦闘機などを対地攻撃任務に回して代用していたのですが、このにはれっきとした理由がありました。それも恐ろしい理由が。今回はその話を記事にしてみたいと思います。


◆戦後のアメリカとソ連の冷戦と開発競争
 第二次世界大戦が終わるやいなや、共産主義陣営と資本主義陣営が対立が始まります。「冷戦」の始まりです。
 それは、朝鮮半島やベトナムを舞台として代理戦争の様相を呈するかたちで、世界各地で新たな紛争、戦争が始まることになりました。

 その間にアメリカが開発、実戦配備した専用攻撃機は以下の通りです(F-111など、戦闘爆撃機、戦闘攻撃機は除く)

●A-1 スカイレーダー 1946年
運用配備
A-2(AJ) サヴェージ 1949年運用配備 世界初核兵器搭載可能の大型艦上攻撃機
A-3(A3D) スカイウォリアー 1956年運用配備 核攻撃を目的とした大型艦上攻撃機
A-4(A4D) スカイホーク 1956年生産開始 世界に輸出された小型攻撃機
A-5 ヴィジランティ 1961年運用開始 超音速核攻撃機〜後で偵察機に転用
A-6 イントルーダー 1963年運用配備 実戦参加の最も多い艦上攻撃機
A-7 コルセアⅡ 1966年運用開始 軽攻撃機

A-10
サンダーボルトⅡ 1977年運用開始

A1.jpg


これに対してソ連が戦後に開発した実用化された攻撃機は大体以下の通り。

●IL-10 シュトゥルモヴィーク 1944年運用開始1955年まで生産された
●Su-7B 戦闘機として開発されたがB型以降は戦闘爆撃機として開発。1955年初飛行
●Yak-38 ハリアーに刺激されて開発した垂直離着陸機 分類は軽襲撃機
●Su-25 グラーチュ 1981年運用開始 A-10のような攻撃機の必要性を感じて開発

Su-25.jpg


このように
IL-10からSu-25までの期間は、軽爆撃機とか、戦闘爆撃機など本格的な攻撃機の用途で開発はしておらず、アメリカとはかなり熱の入れ方の違いが見られます。


◆核兵器の登場が変えたもの

 さて、上の列記から恐ろしい文字が見えたのですが、A-2、A-3などのアメリカの核兵器搭載可能の軍用機です。今思うと恐ろしいですよね。よく今まで使われずに済んだことだと冷や汗が出ます。

 第二次世界大戦後はソビエト連邦はヨーロッパ方面に対して軍事的には圧倒的優位に立っていました。かたやアメリカは
広島・長崎でその効果を実証した核兵器で優位に立っていました。
 アメリカは、ヨーロッパなどにおけるソ連の侵攻を抑止するための核戦略を持っていましたが、ソ連もまたすぐに核開発に成功します。大戦中から多くのスパイの手によってソ連にも核技術が持ち込まれていたとも。ともに大きな核実験を成功させることで、抑止力とする恐ろしい時代の幕開けでした。

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 この時期の核開発は大きく2つありました。一つは戦術核兵器の開発。より小型で小規模な地域で使えるようにするもの。戦略核兵器ではその威力が大きすぎて大国間同士の抑止力にはなりますが、使うこともできず、小国同士の戦争の抑止力にはならなかったからです。

 ソ連が専用の攻撃機の開発を止めた原因はまさにこれでした。戦術核兵器を使えば敵の攻撃をかいくぐってまで攻撃に向かわずにすむではないかということですね。
 速度の早い戦闘機や砲弾に核兵器を搭載し、ぶっ放したほうが手っ取り早いという発想です。 

Upshot-Knothole_GRABLE copy.jpg
1953年に行われたW9核砲弾の実験。

M65 280mmカノン砲で発射。
核出力は広島に投下されたのと同じ15kt


 戦術核兵器には空対空・空対地・地対空・地対地(SRBM)のミサイルおよびロケット弾、航空機搭載の核爆弾、核砲弾、核地雷、核魚雷、核爆雷などの数多くの大量破壊兵器が開発されることになります。

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 核兵器の開発のもう一つの柱が、長距離を飛来する大陸間弾道ミサイルの開発です。
 特に大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実用化は、長距離戦略爆撃機を不要とするものでした。ソ連は、長距離爆撃戦力で劣っていたため、このICBM開発にかなり熱心になります。
 また何千キロもの距離を爆撃機で運ぶより、弾道ミサイルを発射したほうが、運搬する航空機を撃墜される可能性も少なくなり、リスクが低いということもあります。
 アメリカもこの事に気づき、ICBM開発に拍車をかけることになるのですが、これが軍用機開発計画をも大きく変えることになります。ソ連本土から爆撃機が来ないなら迎撃戦闘機も不要になり、全天候型戦闘機も見直しをはかられることになりました。
 更にソ連の防空体制の強化もあり、航空機の侵入が困難になってきたため、戦略爆撃機などの開発よりも弾道ミサイル搭載の潜水艦にシフトしていくことになります。

 戦略核兵器を中心にした機体、そしてそれを迎撃するための機体は、世界の空から徐々に消え去ることになるのです。

 戦術核兵器にせよ、戦略核兵器にせよ、どちらかが核を使えば報復が始まる。ゆえに核を使うことは慎重にならざる負えなくなります。
 キューバ危機などの一発触発の危機を乗り越えた米ソは、お互いの過激な核開発競争に歯止めをかけるべく協議を重ね、
両方で相互確証破壊戦略をとったため、大国間の戦争はなくなりました。が、周辺国で発生する紛争や戦争の抑止力にはなりませんでした。戦争は通常兵器によるもので継続していくことになるのです。
 結局、以上の理由等から、開発を中止していた襲撃機・専用攻撃機の開発は
数十年ぶり再開され、専用攻撃機のSu-25が開発されるに至ります。


◆現在の地上攻撃の主役は攻撃ヘリコプターへ

 
さて、現在の攻撃機ですが生存性を高めるために機動性も重視され、戦闘機と遜色のないものになってきています。空の敵を叩く(戦闘機の任務)か、地上の敵を叩く(攻撃機の任務)かの違いはなくなりつつあり、戦闘機の任務は「対空&対地攻撃」ということになってきているのです。
 ですので、戦闘機として開発されたF-15やF/A-18なども攻撃機や偵察機の任務もまかなえるようなマルチロール機として開発されているのが現在の状況です。

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F-15Eストライクイーグル


 その中でも現在でも異色の存在なのがA-10サンダーボルトでしょう。近接支援専用機として第二次世界大戦下の攻撃の任務を進化発展させたスタイルは退役した軍人たちからも根強い人気を誇っています。

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A-10サンダーボルト


 また、低速やホバリング機能を活かした武装ヘリコプターなどの出現も出てきて以前の襲撃の任務を担うようになってきました。
 世界初の攻撃ヘリAH-1ヒューイコブラは有名ですね。これ以降、世界各国において攻撃ヘリの開発・運用が相次ぐことになります。 

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AH-1


 核兵器の存在によって一時は不要論も出た地上攻撃機でしたが、航空機による核兵器が使われることなく大幅に減少していったのは幸いなことでしたが、反面、通常兵器による紛争は未だ消えないのも現状です。
 願わくば、日本のF-1のように、すべての軍用機が抑止力だけに使われ、平和裏に退役して欲しいものだと願わずにはいれらません。

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コメント 5

kinkin

なるほど、歴史を紐解くと色々な事があるのですね。
誰もの願いですが核は絶対にどこの国だろうが使って
欲しくないですね。
by kinkin (2016-06-08 19:37) 

ワンモア

★kinkin さま
 この時代の核開発競争は、調べるほど、よく戦争が起きなかったものだとハラハラします。
by ワンモア (2016-06-09 11:56) 

johncomeback

テロ組織が核兵器を入手したらと想像するとゾッとしますね。
オバマさんの広島訪問も無意味とは言いませんが、
核廃絶への実効性は乏しいだろうし、プーチンは何を
しでかすか分からないし・・・ 祈るしかありません。
by johncomeback (2016-06-09 13:27) 

ワンモア

★johncomebackさま
おはようございます。21世紀に入り、戦術核兵器の保有数は減少しているそうですが、
アメリカは約500発、ロシアは約2,120発の戦術核弾頭をまだ保有しているそうで・・・。気になります。
by ワンモア (2016-06-10 06:57) 

bpd1teikichi_satoh

戦略核、戦術核にかかわらず核兵器を使うと必ず報復核攻撃
を受けると言う恐怖の均衡の上にかろうじて現代の平和は
成り立っています。核兵器の余りに残忍な非人道性が広島、
長崎から核兵器を使えない兵器にしてきましたがいつこの
均衡が崩れて人類を滅ぼす核戦争が起きるかも知れません。
by bpd1teikichi_satoh (2016-06-14 12:10) 

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