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複葉機あれこれ

 前回は内容が重い記事で疲れましたので、今回は気分を変えて、空の夢とロマンの話を。複葉機にまつわる話と未来の可能性について記事にしてみました。

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◆なぜ初期の飛行機は複葉だったのか?


 飛行機がようやく開発された1910年代、航空用のエンジンの馬力はそれはもう、低いものでした。100馬力に達しないエンジンでようやく浮くといった表現が正しい状況だったかもしれません。

 

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1903年のライト・フライヤー 初めはわずか12馬力^^;


 揚力というものは、速度の2乗で効いてきて、空気の密度、翼面積に比例しますが、非力なエンジンだと速度が出ないので、機体を浮かすために必要な揚力を確保するには、翼面積を大きくするしか方法がありませんでした。

Cap 42.jpg
Cap 66.jpg
L:揚力 ρ:流体密度  V:速度 S:代表面 CL:揚力係数


 しかし、当時の飛行機は、木製で布張り。翼面積を確保するための機体の強度も頼りないものでしたので、短い翼を上下に配置して、ワイヤーで強度を保つ方法で開発をしたのです。

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1909年初飛行 ファルマンⅢ 日本にも来た飛行機

 しかし、エンジンの開発が進み、100馬力台から、200馬力、300馬力と上がるにつれ、揚力を稼げるようになり、さらには、製造技術も向上し、翼も一枚で済むようになってきました。

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フォッカー E.III 1915年初飛行 量産された世界初の戦闘機
まだまだ張り線だらけですね。


 1920〜1930年代には複葉機と単葉機が併用される時代になり、1930年代後半には、全金属製、単葉機が主流になり、複葉機は旧式化していくことになります。
 
◆世界最速の複葉機は?

 
それでも、第二次世界大戦時にも、旋回性能の良さや低速性が逆に必要な初等練習機などには複葉機は重宝され、わずかながらも開発されていました。
 
1939年という時代でもまだ、複葉機のイタリアのCR.42が開発され、B型という、試作機においては、ダイムラーベンツDB601A(1,100馬力) 搭載型が、1941年に540km/hを記録し、複葉機としての最高記録を打ち出しています。
 DB601は日本やイタリアでライセンス生産された、当時の最新鋭エンジン。超アンバランスな組み合わせですね(笑) 

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◆ジェット機の複葉機が存在する!?

 こちらは、さらに複葉機でジェットエンジン搭載という異色なスタイルです。
ポーランドで開発されたM-15という航空機。


 ソビエトなどの広大な面積を有する農場で用いられる農業用として開発されました。1976年から1981年までの間に120機ほどが生産されています。
 奇妙な形状からベルフェゴル(悪魔の意味)という渾名が付けられています。どうもソ連邦の人たちは口が悪いというか率直すぎる渾名を付けるようですな。
 後発機が続かなかったのは、ジェットエンジンは経済性に劣るためでした。

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エンジンは胴体上部に1基のみで、
両側の膨らみは農薬タンクのようです。
最大速度は200km/h


◆複葉機は完全に廃れてしまったのか。

 さて、現在の複葉機はというと、スポーツ機、農業機として活躍していますが実用機としてはほぼ無くなったに等しい感じです。

 愛好家の間ではビルド機として組み立て可能な複葉機としても発売されています。そうそう、私の母校でもスターダスターⅡという複葉機を購入して、部活動の一環で製作していましたけっけ^^

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曲技用飛行機として有名な ピッツ・スペシャル

 

 省スペース、運動性などのメリットがある複葉機ですが、実用として使うにはあまりメリットがないようです。
 しかし、ここ近年にきて、この複葉機のスタイルがもしかすると未来の飛行機の最先端のデザインになるかもしれないという可能性が出てきたのです。それも超音速機の世界で。


◆日本が研究している超音速機に複葉デザインを取り入れる技術。
 これは
1930年代にドイツの航空工学者アドルフ・ブーゼマンが提唱したブーゼマン複葉翼というもので、二枚の翼に発生した衝撃波を干渉させ打ち消すというものでした。

簡単にいうとこんな図になります。

Cap 67.jpg


 翼の断面はダイヤモンド型のように中央が膨らんでいます。この衝撃波が生じる翼を2枚に分割し、挟むこむような形にします。すると2つの翼で発生した衝撃波をお互いに干渉させて打ち消すことができるのです。分かりやすい理論ですね。

 しかし、当時は超音速機の話など夢のまた夢でしたので、理論だけに終わりましたが、戦後、超音速機の開発が始まった頃にNASAが目をつけ研究を開始したのです。

 実際には
色々な問題があって研究が打ち切られていました。この研究を日本の
東北大学流体科学研究所の大林茂教授が、引き継いだ形で研究が行われています。

 これがモデル図。いやあ、未来的ですね。カッコいい〜。分類はこれでも複葉機なのです^^;


 超音速機には必ず生じる音の壁。音速を超えると発生するこの衝撃はソニックブームと言われ、大音響が問題になっています。
 そういえば2013年にロシアに落ちてきた隕石落下事件も、実際の被害はこの隕石のソニックブームで窓ガラスなどが割れたことでしたね。

 このように、飛行機は複葉機で始まり、その使命を終えたかに見えましたが、超音速機という未来の分野でまた復活しようと試みられています。
 快適な空の旅への夢が広がる分野だと思います。今後が楽しみですね。

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コメント 3

dumbo

ワンモアさま、こんにちは。
かっこいい複葉機ですね。
ですが、ちょっと傾けると衝撃波がずれてって・・・
最悪、波長が合って増幅して・・・
あっ、NASAですからそんなことはないですよね。笑
お久しぶりです。
by dumbo (2016-06-09 15:45) 

johncomeback

拙ブログへのコメントありがとうございます。
R294は信号も車も少なく、燃費に良い道路でした。

今回もとても分かり易く&面白く拝読させていただきました。
by johncomeback (2016-06-10 08:48) 

caveruna

未来形の飛行機、カッコイイーー!!
by caveruna (2016-06-10 11:41) 

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