SSブログ

翼のカタチ〜ガル翼と逆ガル翼の話

 前回の流星、烈風、Ju87スツーカ、コルセアなど、「逆ガル翼」と言われる翼を持つ飛行機は実は結構多く、その翼の形は特徴的で、カモメにも似て有機的で美しいとも評されています(翼の向きは逆ですが)。
逆ガル翼.jpg
逆ガル翼三兄弟。Ju87、コルセア、流星


 映画『風立ちぬ』でも最後に登場する「九試単座戦闘機」も美しい翼をもった飛行機として描かれていますね。
 さて、これに対して、「逆」じゃない、ガル翼の飛行機はあるのでしょうか。いわば、カモメそのものの形です。あまり聞きませんが、あることはあるのです。でもメジャーなのは逆ガル翼。今回はその翼の違いについてのお話を。


Larus_argentatus_argenteus copy.jpg
カモメはカモメ

◆逆ガル翼のメリット

 コルセアもそうですが、エンジンが大出力だとそれを活かせるプロペラも大直径になります。すると、このプロペラが地面に接触させないように、駐機している間は、主脚をうんと伸ばさないといけません。しかし主脚は、それだけで100kg近い大重量物。しかも空中ではまったくのお荷物でなんの役にも立ちません。なるべく軽くしたいのが設計者の願いなのです。


 また、爆弾を抱える攻撃機が高速化を図るため、胴体内に格納する設計だと、中翼機
になり、これもまた主脚が長くなります (空力的には中翼は理想だが、その分構造が難しくなる)。

流星ロールアウト機.jpg
愛知「流星」。中翼の逆ガル翼です。

 このような場合、主脚の位置をなるべく地面に近づけた状態で設計しようとすると、翼が中折れした形にしたほうがメリットがあるということで考えられているのが、逆ガル翼のメリットです。
 いわば、空力的にも良いし、主脚構造的にもGoodな、良いとこ取りなのです。
E382B3E383ABE382BBE382A2E4B889E99DA2E59BB3-944bc copy.jpg
逆ガル翼にしなかったらものすごい長い主脚になっていました。

デメリットは、桁の構造が複雑化することと、折れている部分で、空気の流れが剥離しやすい(→揚力が落ちる)ということですね。

 更には癖のある飛行特性になるので、空力的にまとめるには結構難しく、色々な機体がチャレンジしては普通の主翼に戻しています。
 堀越二郎氏の九試単戦→九六式艦戦もそうですね。F4Uコルセアの艦上戦闘機としての採用が遅れたのも逆ガルスタイル特有の飛行性に苦しめられたからだと言われています。

 またこのスタイルは安定性が高いのですが、それは逆に高機動の運動性の低下となりますので、戦闘機には不向きであるとも。Ju87スツーカは逆にこの安定性を活かして急降下爆撃機として成功しています。


◆ガル翼のメリットは?

 さて、それに対して、ガル翼のメリットはなんでしょうか?数も少ないことからも、あまりメリットがなさそうですが、鳥の翼型を真似てきた正統派の翼です。メリットがないはずはありませんよね。

 メリットその1〜視界が良い。
 初期の頃の複葉機、単葉機では、翼はなるべくパイロットから高い位置にあった方が視界が良いのです。なので、以前は「パラソル翼」などもあったのですが、支柱やら張り線などで空気抵抗の面で不利でした。

260px-Monoplane_parasol.svg.png
パラソル翼

 そこで、直接胴体から斜め上に取り付けて途中でカモメのように曲げてしまおうというアイデアで設計されたのがガル翼採用の理由です。

latest.jpg
正にカモメの翼。I-153チャイカ(カモメの意)
下翼は軽く逆ガルが入っていますね

→WWⅡWiki


 メリットその2〜エンジンを水面からなるべく離すことでトラブルを抑えられる
飛行艇、水上機に多いのですが、PBMマリナー、PZL P.11 Be-12など、海面でエンジンが波を被るのを避ける目的で採用されています。
 日本の誇る二式大艇やUS-2は、波そのものを抑えるというアイデアで対応しています。

 こちらもチャイカの愛称を持つ、ソ連時代に開発されたBe-12対潜哨戒機。1965年から今も現役です。

Beriev_Be-12_Gelenzhik_2Sept2004 copy.jpg
翼端の方はフロートが付いていいるので逆に海面に近づけています。M字型ウイングです。
Berijew_Be-12_Mail copy.jpg
鼻の形が愛嬌ありますね^^

 メリットその3〜地面から離れているのでダメージが少ない?
 これは個人的感想なのですが、グライダーや模型飛行機だと、脚が短いので胴体着陸のようになりますが、翼が地面から離れている分、ダメージが少ないのかなと思うのですが、どうでしょう。 
1024px-DFS_Habicht_E_1 copy.jpg


◆逆ガル翼とガル翼のダブル!
九試艦上攻撃機(B4N 中島製・不採用) 

 このように逆ガル翼もガル翼も、特徴的なデザインですが、両方の翼をつけた複葉機も存在します。
 思わず「うぉぉ」と声が出るデザイン^^; 中島のB4N、九試艦上攻撃機です。
 結局、このコンペで採用になったのは、空廠機の B4Y1 九六式艦上攻撃機でしたが、インパクト大の複葉機です。

94340523_o3 copy.jpg
九試艦上攻撃機
(B4N)

 流石にマイナー過ぎてレジンキットでしか発売されていません。いやむしろよく模型化してくれたと拍手です。
94340523_o2 copy.jpg
94340523_o1 copy.jpg


◆ガルウィングは今後は採用なるか。

 
このように、逆ガル翼もガル翼も、明確な設計コンセプトがあって特殊なスタイルになったのがお分かりになったと思います。レシプロ機からジェットの時代に入り、このようなスタイルの翼はもう、みかけなくなりましたが、超音速複葉機のようにまた将来は復活する可能性もあるのかなと期待しています。

 それまでは、スポーツカーのガルウイングで目の保養でもしておきましょうか^^
1955_Mercedes-Benz_300SL_Gullwing_Coupe_34_right copy.jpg

<関連記事>
→重くて速い逆さカモメ、F4Uコルセア


A&W AW144059 1/144 中島 九試艦上攻撃機 B4N1

新品価格
¥4,536から
(2016/6/17 16:05時点)


1/48F4U-5N コルセア

新品価格
¥1,969から
(2016/6/17 23:17時点)


1/48 ポリカルポフI-153 チャイカ

新品価格
¥1,640から
(2016/6/17 23:18時点)


こんな記事もどうぞ

来たよ(41)  コメント(9)  トラックバック(0)  [編集]
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 41

コメント 9

dumbo

ワンモアさま、こんにちは。(おはようございます?)
カモメのお写真きれいです。
羽が中間で折れていると見た目にも格好いい感じがします。
カモメの場合、肘関節部分(あるいは手根部)で湾曲しているということなのでしょう。
多くの鳥類は肘が上向き、手根が下向きなってますね。
鳥が空力的なことを考えたかどうかは不明ですが、
自然にそうなってさらに空力的に有利に進化がすすんだのでしょう、動物とはすごいものです。
羽ですばらしいのはアホウドリでしょうが、albatrus wingはないのでしょうか?
格好いいのですがね、笑
by dumbo (2016-06-18 05:30) 

johncomeback

今日のお話も大変分かり易く、面白かったです。
分かり易く説明するって、難しいですよね(^^)
by johncomeback (2016-06-18 06:20) 

アニ

ガルと聞くとスーパーカーのドアを思い出します^_^
by アニ (2016-06-18 07:12) 

ロートレー

ガルウイングといえば、滝川航空公園で、風の谷のナウシカのメーヴェが飛行しました。
さすがにパイロットは腹ばいですが、空想上の乗り物を作ってしまったばかりでなく、飛んでみせた八谷さんて凄い人とですね~!
by ロートレー (2016-06-18 13:04) 

Hide

こんにちは、ご無沙汰しておりますが、何とかやっております。この、九試艦上攻撃機(B4N)は初めて見ますがかっこいいですね〜ガルウイングは裕ちゃんが乗っていましたよね?
by Hide (2016-06-18 14:21) 

ワンモア

★dumboさま
 こんばんは〜アルバトロス!そうでしたね。翼型としては素晴らしいと思います。流石ですね。
 エリッヒタウベなんかがそれに近いかも(^^)。今度、アルバトロスも記事にするつもりです^^

★johncomebackさま
 ありがとうございます。先日、johncomebackさんたちが通った294号線を私も通りました^^

★アニさま
 ガルウイングで検索すると、車ばっかりです(笑)。最近は軽自動車もガルウイングドアにできるキットも売られているそうで^^;

★ロートレーさま
 メーヴェの実物、凄いですよね。宮崎アニメの重力感が好きなのですが、1Gの世界じゃないですよね(笑)

★Hide さま
 お仕事、お疲れ様です^^ 裕ちゃんが乗っていたのは車でしたっけ?(笑)

by ワンモア (2016-06-18 21:50) 

dumbo

http://onemore01.blog.so-net.ne.jp/2016-03-14
でOKでしょうか?
かっこいい飛行機です。
最高時速120km/hということですので、まさに鳩ですね。
アホウドリの最高速度は結構遅いみたいで、ペラゴルニス・サンデルシはもっと遅かったのでしょうか?
あっすみません、飛行機ではLockheed U-2とか、Ta152H-1にあたるのでしょうか○×△?笑
by dumbo (2016-06-18 23:08) 

タイド☆マン

F4U コルセア 
今 気がついたのですが 主翼の胴体近くに 空気取入れ口の
ようなものが開いていますね なにかなあ
>女性戦車兵
はい シークレットです 買ってしまいました (笑)

by タイド☆マン (2016-06-19 05:54) 

ワンモア

★dumboさま
 そう、この記事です。ペラゴルニス・サンデルシなんて流石、生物にお詳しいですね^^;
 U-2やTa152Hにカタチは似ていますが、高々度のための翼なので、偶然の一致なのでしょうか。うーん。
 
★タイド☆マンさま
 正に空気取り入れ口です。厚い翼だからできるスタイルですね。
by ワンモア (2016-06-19 11:48) 

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました
Copyright © 1/144ヒコーキ工房 All Rights Reserved.

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。