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風防のカタチ。ファストバックか水滴型か。

 なんか、久しぶりのヒコーキネタのような気がします(汗)。今回は真面目な話を。
 「風防」とは、呼んで字のごとしで、パイロットを風から守る透明な囲いのことです。
英語ではキャノピー(
Canopy)なんて呼ばれています。

Image-Supermarine_Spitfire_Mk_XVI_NR_crop.jpg


 昔は風防は前だけで、開放型の操縦席で飛んでいましたが、200km/h、300km/hと飛行機たちの速度が上がるにつれ、パイロットの周りを全部囲うようになりました。また、高高度も飛行するようになると、操縦席の内部は地上と同じような気圧を保つため、与圧室を装備するようにもなり、飛行機の進歩と共に風防のあり方も大きく変わっていくことになります。

 第二次大戦時の戦闘機たちの風防のスタイルは、ファストバック型か、水滴型風防型に分かれました。
 ファストバック型とはこんな感じ。

スピットファイア&Bf109E.jpg
水滴型風防とはこんな感じ

零戦.jpg

 ファストバック型は風防と胴体が一体化しているスタイルで、水滴型は、胴体の上に風防が乗っかっている感じのデザインです。いわば、ホントに水滴を落とした感じのデザイン。どちらが優れているのかは一長一短があります。

まずは、ファストバック型の特徴を。

◆ファストバック型風防の特徴
 大戦初期の頃の戦闘機には多いスタイルで、これは航空用エンジンがまだ非力だった頃に、空気抵抗を極力少なくするためのデザインなのです。
 一番良いのは、風防自体がないミサイルのようなカタチなのですが、そういう訳にもいかないので、パイロットの視界確保と安全性のために胴体にはみ出るかたちで風防が取り付けられるようになります。

Cap 165 のコピー.jpg


 こういう感じで、突起物があると気流の乱れが空気抵抗を作り出します。これを整流板で胴体に慣らすかたちで一体化させたのがファストバックスタイルという訳です。

SB6_07.jpg
スピートを競っていた頃には、このような流線型で、視界よりも速度重視のスタイルでした。

 ちなみにファストバックという名称ですが、当時はこういう呼び方はされていませんでした。本来はクルマに使われている用語なのですが水滴型に対して便宜的にファストバックという呼び方をされています。
 特に欧米では、スピードレースが盛んに行われていたため、このようなスタイルが一般的というか、流行っていました。ですのでドイツのBf109も、スピットファイアも例にももれずファストバックスタイルです。

 このようにファストバックスタイルの風防は、戦闘機が求める速度重視のコンセプトから生まれたデザインといえます。
 デメリットは見ての通り、後方視界が悪くなるということです。ですので、バックミラーをつけたり、風防を少し膨らませたりと工夫もされています。
Cap 166.jpg

 上がファストバック、下が水滴型の空気の流れ。水滴型の方が、空気の乱れが発生しやすく、空気抵抗を生みやすいのです。速度差は5〜10km/hの違いが出ると言われています。


◆水滴型風防の特徴

 このファストバックに対しての水滴型風防ですが、大戦初期は日本機以外にはあまり例がありません。スピードレースなどの高速機開発まで進んでいなかった日本の場合は、最初から水滴型風防のスタイルでした。

これは
・格闘性を重視した軍部やパイロットの視界確保の強い要望を反映。
・無線装置が悪いため、個人で絶えず、索敵をする必要もあった。
などが理由としてありそうです。
 以下のように陸軍機を見てもほとんどが、水滴型ですね。日本機がみんな同じように見えるとの意見もありますが、なんとなく分かるように思います(;^ω^)。

Cap 165.jpg
41IC2skBC5L.jpg
 ファストバックスタイルは、三式戦「飛燕」と「雷電」ぐらいでしょうか。しかし、三式戦「飛燕」の水冷エンジンの製造の遅れによって空冷になった五式戦は、途中から、他の日本機同様に水滴型風防に改修されています。日本のパイロットたちは、水滴型がよほど好きなんですね。
五式戦.jpg


 
それ以外だと、映画「風立ちぬ」の主人公、堀越二郎氏の九六式艦戦(映画で最後に飛行している九試単戦の採用型)。このスタイルが操縦席後部を流線型の覆いで囲ったファストバックに近いスタイルです。

96kansen_09122.jpg


 この風防のデザインはすごい苦労しているみたいで、一時は、全部囲ったかたちでデザインもしたのですが、パイロットから大不評で開放型に直されました。

 しかし、このデザイン、実は空力的というよりも、第一世界大戦の複葉機のデザインの流れを組んでいて、パイロットを保護する目的が主流でデザインされたらしいです。
 飛行機は、前にエンジンがあるため重量がかなり前に来ており、着陸事故でよく前のめりに突っ込んだり横転することが頻繁に起きていました
 こんなの。

九六式.jpg


 完全にひっくり返るとパイロットの頭は胴体から出ているだけなので、かなり危険なのです。よって背もたれを高くしたり、パイロットを保護する設計が行なれることに。しかし、そのままだと、空気抵抗が大きいので整流板を胴体上部につけたという流れなのですね。

◆それぞれのメリット、デメリット
 
ということで、まとめると、
 ファストバックスタイルのメリット空気抵抗が少ない→速度が出やすい。デメリットは後方視界が悪い→戦闘に不利

 水滴型風防の
メリット後方視界が良い→戦闘に有利デメリットは空気抵抗が多くなる→速度が出にくい
 ということになりそうです。
 さて、エンジンのパワーが向上してくると、欧米では多少の空気抵抗はリカバリーできるとして、パイロットの視界を確保しようという流れになってきました。戦争中ですので、パイロットの養成にも視界の良さは一役買ったのではないかと思います。
 また、胴体が小さくなるので軽量化にもつながるということで、昔ほどファストバックの利点が少なくなったともいえそうです。
 欧米では日本機に合わせたという訳ではないのですが、上記の理由により、続々と水滴型風防に設計を改修し初めます。P-51Dマスタング、P-47サンダーボルトなどそうですね。スピットファイアも水滴型風防スタイルに切り替えています。

P^51B&D.jpg

上がP-51A→下が水滴型にしたP-51D
P-47D.jpg
P-47も水滴型に改修しています。
スピットファイア.jpg
Bf109のライバルだったスピットファイアもこの通り。

 胴体の縦長比は、垂直尾翼と同じ安定性とも関係がありますので、ファストバックでなくなることで落ちる安定性は、垂直尾翼を大きくしたり、整流板を追加でつけるようにしています。
 

◆現在の主流は水滴型風防

 現在の戦闘機などは完全に水滴型風防になっています。最新式では、こんな一体型も。

F-22.jpg
構造はよりシンプルになりましたが、使われている技術は最新式です。
Navy-wins-award-for-F-35-canopy-making-process.jpg
上がF-22 下がF-35のキャノピー


 さらには、金を蒸着させてステレス性をアップさせたり、ヘッドアップディスプレイになったりと更に進化を遂げています。

 このように、パイロットと飛行機の関係は、風防のデザインに反映されます。速度を重視でいくか、視界重視でいくかと悩んだ時代は今は昔。エンジンのパワーが上がってくると、多少の空気抵抗は問題がなくなったり、両者を統合する空力デザインになってきます。

 風をモロに受けるスタイルも未だに大好きなんですけどね(^^)

95shiki_05.jpg


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コメント 3

JR浜松

大変分かり易い解説、勉強になります。
現代の第4、5世代のキャノピー格好良いですね♪
by JR浜松 (2016-10-10 14:32) 

タイド☆マン

スピットファイアは ファストバック型
マスタングは 水滴型が好きです
もし 零戦をファストバック型に改造するとしたら
パテが大量に必要ですね? (笑)
100SHOPの缶は 他にも種類がありましたよ ☆
by タイド☆マン (2016-10-10 17:13) 

ワンモア

★ JR浜松 さま
 現代のキャノピーは構造は簡素化されていますけど、その分、最新の技術が濃縮されていて興味深いですよね。

★ タイド☆マンさま
日本の水滴型は旧式な感じがしますけど、マスタングなどは最新というイメージですよね。やっぱり窓枠の多さかな(;^ω^)
by ワンモア (2016-10-11 10:52) 

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