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夢は終わらない。超音速旅行の新たな未来へ〜コンコルドがみた夢〜その3

  さて、超音速旅客機、コンコルドについての話、今回が最終回となります。
 25年間で、たった一回の事故でしたが、搭乗員が全員死亡という痛ましい事故により、これが引き金のようなかたちになり、コンコルドは25年の運行に幕を閉じます。

 世界で唯一の超音速旅行はこれをもって終焉となり、その後、コンコルドの夢を引き継ぐ旅客機は15年近く経った現在でも現れていません。

Cap 251.jpg

 そして実は、私たちは1960年代の飛行速度で今も旅行をし続けているのです。
 考えてみれば、なんと進歩のないことでしょうか。
旅客機は毎年のように新たな技術が開発され向上はしているのですが、肝心の旅行の時間に関しては変化がないのですから。

Jet_Speed_1920-2010.PNG
経済性とソニックブームの壁が音速以下の旅行になっています。


 現在の旅客機たちは、音速の壁を超える際の大きな障害の前に、その速度を落としざる負えないのです。

◆戦闘機は超音速飛行ができるのに旅客機は何故できないのか。

 ここで誰もが疑問に思う質問を。
「戦闘機では音速飛行が当たり前なのに、何故民間の世界ではこんなにも困難なのでしょうか」。
 これの答えですが、戦闘機と言えども音速飛行には限界があるのです。音速を超えたまま何時間も飛行するには、機体とエンジンにかなり負担がかかります。
 そもそもマッハで飛行するには理由があり、「敵の攻撃範囲から逃げるため」「戦闘区域にいち早く到着するため」などですので、数分間だけエンジンを全力にして音速突破を行います。そこには経済性などは二の次です。
 しかし旅客機は超音速飛行で数時間は飛ばないといけませんし、燃費や経済性なども非常に重視されます。
 同じ超音速の技術でも、軍用機と民間の旅客機では、全く別のところを目指しているのです。

breaking_sound.jpg
音速を超えた瞬間の貴重な画像(FA-18)

FA-18SONIC.jpg


◆諦めかけていた夢が蘇る
〜最大の難関、ソニックブームの克服

 しかし、なるべく早く到着したいという夢も捨てきれません。超音速旅客機(SST)はコンコルド(とソ連のTu-144)一代で潰えたかのように思えましたが、技術者たちは諦めていませんでした。
 超音速飛行で最大の難関はなんといっても凄まじいソニックブームです。
これは、超音速飛行の宿命でもあり、コンコルドの息の根を止めた最大の障害でもありました。

 ソニックブームをどう克服するか。これはエンジンの騒音どころのではなく、地上のガラスをも割ってしまうほどの破壊力を有しており、その轟音は50km先まで響き渡ります。羽田上空で音速突破されたら、東京はもちろんのこと、関東一円にまで響き渡ることに(;´Д`)

  近年、このソニックブームの解明の研究がかなり進んでおり、その正体をつかみ、コントロールするところまで進んできました。

 ソニックブームは、超音速飛行する航空機のどこか1か所から生じるのではなく、機体表面の様々な場所において、強さも指向性も異なったものが複数発生するのです。
 この複数のソニックブームが重なりあうことで、増幅し、強烈な爆発音が生じるとのこと。
 ソニックブーム自体は発生を止めることができませんが、発生を
重なり合わないよう散乱させることによってソニックブームをコントロールしようとする動きが出てきているのです。
 これは日本のJAXAも参加しており、現在では
「ソニックブームの国際基準」の策定の段階まで来ています。

Quiet Spike.jpg
このF-15のクワイエットスパイク、プラモにもなってます


 F-15戦闘機に「クワイエットスパイク」と呼ばれる低ソニックブーム実験装置が搭載され試験が行われるなど、静粛超音速自体は既存技術になりつつあります。


◆燃費の問題

 また、音速を超えるとエンジンの燃費がかなり悪くなるのですが、これも、コンコルドを商業的に失敗させた大きな要因でした。そこで新しい複合素材の実用化や軽量化、エンジンの燃費による経済性、更には乗客増の設計など複合的な視点でこの問題を解決しようと進めています。


◆続々と開発されるSST、超音速輸送機たち


 こうしてNASAや日本のJAXAなど宇宙分野の技術も参入してきて、超音速飛行の輸送機(旅客機)は実用化の現実味を帯びてきました。
 アメリカのブームテクノロジー社では、今年に超音速機XB-1(ベイビーブーム)のデザインを公開し、来年の初飛行を目指しています。これは、本命の機体の1/3の大きさのプロトタイプ機で、うまくいけば2023年からの運行を目指しているとのこと。
 定員は約40名と少ないですが、同区間をファーストクラスで結ぶのと変わらない航空運賃(ニューヨーク、ロンドン間であれば、往復約50万円)を実現できそうなのです。

「コンコルドの設計者には、手頃な価格の超音速旅行を可能とする技術がなかったが、今ならできる。2017年末には初飛行が予定される最初の航空機を公開できることを誇りに思う」とのことです。

 
 日本では、ソニックブームを抑えるために複葉機を復活させる案もあるのです。うーん、凄いですね。

◆「コンコルド効果」を乗り越えて。


 こうして、一度は潰えたかのように見えた超音速旅客機ですが、最新の技術を続々と取り入れ、経済的にも環境的にも優しい空の旅が見えてきました。

 心理学や行動経済学の分野に「コンコルド効果」という言葉が使われているのですが、これは、「過去に行った投資を惜しむあまり、将来失敗することが分かっているにも関わらず、投資を継続してしまう心理」を指す意味で使われているのです。
 それは決してポジティブな意味ではなく、ネガティブな意味でコンコルドの名が使われているので個人的にはあまり面白くないのですが、「過去の投資がもったいないから止める決断ができない」という
大人特有の心理なのでしょうか。仕事に限らず、ギャンブルや恋愛などにもいえることらしいのです。過去に投資した時間やお金がもったいないからズルズルと引きずってしまう心理ですね。

コンコルド.jpg


 投資活動を行うにあたり、こういう間違いを起こさないように経営管理は大切ですが、実際のコンコルドの実用化と就航は、それだけでは測れない、未来に対して多くの遺産を残してくれたように思います。
 現在、SSTを開発している技術者たちの中には、「子供の頃に見たコンコルドをもう一度」という思いを抱いている人たちもいるでしょう。
 「
人類の歴史には超音速旅行があった」という事実は、商業的な面だけでは語れないものがあると思うのです。
 実際にコンコルドが空を飛んでいた、先駆者が存在したという現実と実績があるからこそ、後世の人々に多くの影響力を与え、技術開発の原動力にもなっているのではないでしょうか。
 もう一度、超音速の旅を・・・。コンコルドの夢は終わらないようです。  
 東京からニューヨークまで日帰りで行ける日もそう遠くないかもしれません。楽しみですね。

→JAXA「静かな超音速旅客機を実現するために」

→複葉機あれこれ

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コメント 7

johncomeback

もう乗れないと思っていましたが、
乗れる可能性があるのですね、早くして欲しいなぁ。

明日、東北本線を南下して上京します(^^)
by johncomeback (2016-12-22 15:44) 

tanukyan

興味深い記事でした
by tanukyan (2016-12-22 15:50) 

足立sunny

ふつうの旅客機でいいから、もう一度乗ってみたいですね(怖くて乗れないのですが)。
by 足立sunny (2016-12-22 19:47) 

ロートレー

改めて、コンコルドの開発に携わった人たちの偉業に、畏敬の念を持ってしまいます。
by ロートレー (2016-12-22 20:26) 

ワンモア

★johncomeback さま
 十年後には、大きく変わっているかもしれませんね(^^)

★tanukyan さま
 ありがとうございます。今後もよろしくお願いします♪

★足立sunny さま
 実は私も旅客機は怖いのです(笑)。逆にセスナやモータグライダーなど小さい方が安心するという不思議(^^)

★ロートレー さま
 コンコルド効果の意味で、「コンコルド」の名前を使うのは止めて欲しいなぁと思ってます(・3・)

by ワンモア (2016-12-23 13:18) 

caveruna

日帰りでちょっとNYへ〜
って、カッコイイ!
by caveruna (2016-12-24 07:14) 

ワンモア

★caverunaさま
 「あ、その日、NYで打ち合わせなんだけど、夜には妻と銀座でディナーの約束なので戻らないといけないんだ」なんてセリフをほざいて見たいもんですな(笑)
by ワンモア (2016-12-24 21:11) 

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