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戦闘機より早い爆撃機を作れ!高速爆撃機の夢〜その2

 前回の続きになります。技術者たちを悩まし続けた「戦闘機よりも早い高速爆撃機」開発。その困難さは速度と搭載量が相反する性質のものだからでした。

Cap 281.jpg


 図で示すとこんなイメージ。エンジンの馬力でその飛行機のポテンシャルが決まりますので、速度を早くするとその分搭載量が減少してしまうというかたちになります。
 速度を早くするためには、空力的に洗練し、軽くするのが一番なのですが、やりすぎると今度は構造が脆弱になり、搭載量が減ってしまいます。

Cap 284.jpg

 日本は海軍が航続距離重視、陸軍が速度重視でしたが、エンジンが非力なため開発には苦労しています。ドイツは液冷エンジンが優秀なため、空力的には優れていましたが、その反面、高出力の開発が難点でした。
 チートなのがアメリカ。2,000馬力級エンジンは、余力を生みますので、搭載量、重武装、なおかつ航続距離も長い大型爆撃機を開発できました。空力的に不利でも大馬力エンジンでカバーしてしまう強引さ。

 このように各国特徴があるのですが、自国の戦闘機の最高速度に近づけてたり高速化ができても、敵国の戦闘機の追跡から逃れることのできる高速爆撃機はなかなか成功しません。
 実現はもはや不可能かにみえたのですが、ここへきてドイツが逆転の一発を放ちます。それはジェットエンジン・・・さすが、工業大国ドイツ。


◆戦闘機から爆撃機へ〜メッサーシュミットMe262

Bundesarchiv_Bild_146-2006-0123,_Adolf_Galland.jpg ジェットエンジン自体の開発は戦争が始まる1938年から実は始まっていました。翌年の1939年にはハインケル社のHe178が世界初のターボジェットエンジン搭載の飛行に成功させます。 これに先んじてBMW社とユンカース社でターボジェットエンジンの製作がすでに始まっていました。

 

 1943年5月22日、ガーランド戦闘機隊総監(右図)はジェット戦闘機メッサーシュミットMe262のテスト飛行を自ら行った際、その加速性と高速性からMe262を戦闘機として高く評価し、防空用戦闘機の切り札として準備を進めていました。しかしMe262を見たヒトラーはこれを爆撃機として生産するように命じてしまいます。

 ガーランドは「Me262のような小型機に小型爆弾を積んでも無駄。アラド社が別に爆撃用を作っているのでMe262は防空戦闘機にするべき」と主張し、ゲーリングらの上層部と大いに揉めることになり、これがきっかけで解任されることになります。

Me262.jpg
1トンまで積める予定でしたがバランスを崩すため
実際には搭載量は半分になりました。


 その後、自由の身になったガーランドがMe262とエースパイロットを集めた第44戦闘団(JV44)を編成し、最後の大活躍をするのは有名な話なのです。

→エースパイロットを集めた部隊。第343空とJV44

 Me262には、そういう訳で、戦闘機としては大活躍をしましたが、戦闘爆撃機としては、重心が移動してしまう関係で、
予定の半分の250kg×2発しか爆弾を搭載できず、不満足な性能になりました。爆撃機としては満足な成果を上げることはできなかったのです。

◆高速偵察機から爆撃機へ〜アラド234

Ar234.jpg
 Ar 234B-2   爆撃機型 最大爆弾搭載量1,500kg。


 Me262に続き、アラド社でもジェット機を開発していました。当初は高速偵察機として開発されていましたが、この機体を改良すれば爆撃機としても開発が可能のため爆撃機がメインで開発されます。世界初の実用ジエット爆撃機の誕生となります。
 B型の最大速度は、爆弾搭載量が最大の時には高高度で668km/hにとどまると考えられましたが、それでも世界中のどの爆撃機よりも高速なのは明らかです。
 爆弾を投下した後は速やかに離脱も可能です。偵察機では高度9,000m以上を約740km/hで巡航できるので、この機体を捕捉するのは不可能でした。

◆その後の爆撃機〜超音速からステルスへ。そして極超音速へ。


 さて、ジェット機が各国で開発されてくると、
超音速の時代になり、爆撃機でも超音速性能が重要視されてきます。しかし、今まで同様、速度を上げると搭載量が減るという二律背反の関係で、戦闘機を超える爆撃機はまた夢へとなってしまいます。さらに、大陸間弾道ミサイルの発達もあり開発はその後尻すぼみとなっていきました。

 実用化された本格的な超音速爆撃機としては、アメリカのB-1ランサー、ソ連のTu-160などが配備されましたが、現在は、戦闘機の性能向上が著しく、戦闘爆撃機・マルチロール機として従来の爆撃機の任務をほぼ代替できるような状況なので、専用の大型爆撃機を開発する動機そのものが失われている状態なのです。

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B-1

  現在において最新鋭の爆撃機はアメリカ空軍のB-2ですが、速度は亜音速(音速の9割ほど)に留めてステルス性を重視した仕様となっています。
 ステルスはレーダーにかからない塗装、そのメンテナスにかかる莫大な費用、搭載する兵器の減少というかなり大きなデメリットと引き換えに手に入れた力です。意外とデメリットが大きいのです。
そのデメリットに対抗する技術の実用化がもう現れ始めています。

Stealth.jpg
B-2

 そう、ここへ来て、もう一度超音速機が見直されているのです。「ステルスは面倒くさいし、金もかかる。敵に気づかれたときにはもう攻撃できるように早く飛んでしまえば、もはや姿を隠す必要もない」という考えに基づき、マッハ数5.0以上で飛行する「極超音速機」の開発が進んでいるのです。

 試験機ではもう十年以上前にアメリカのX-43が2004年11月16日に行われた3回目の飛行試験で12,144km/h (マッハ9.68)の最高速度を記録しています。

X-15.jpg
X-43

 地球の円周は4万km。3時間半で地球を一周できてしまいます(その時間速度を持続できればの話ですが)。
 東京 成田からニューヨークまでの距離は10,829km、旅客機では12時間半かかるところを1時間かからずに飛行してしまう飛行機がすでに開発されているのです。

 ステルス機が次世代の優勢を誇るのか、極超音速機が次の世代の主流になるのか、いやパイロットさえも必要のない無人飛行機が空を支配するようになるのか。それはまだ未知数の部分があるのですが、地球がどんどん狭くなっているのは確実のようです。

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コメント 5

caveruna

こんなに速度が速い物体を(笑)、
肉眼で見たらどんなかんじなんでしょう?
by caveruna (2017-01-24 14:15) 

(。・_・。)2k

スゲ〜早さですねぇ
なんか 降りた時に 違う世界に降り立ちそう(笑)

by (。・_・。)2k (2017-01-24 17:38) 

johncomeback

マッハ9.68で飛ぶ飛行機が10年以上前に開発されていたとは・・・
今回も勉強になりましたm(_ _)m
by johncomeback (2017-01-24 19:48) 

tsumi

はあー気の遠くなるようなお話ですね…
全くすごい世界過ぎて、目が点です笑
もはや極超音速までも…一体どこまで早くなるんでしょうか?!
次元違いの話かもしれませんが、光の速さを超える乗り物を作ったらタイムマシンが出来ると聞いたことがあります。なんだか、今回のようなお話を聞くとドキドキしてしまう私です。
by tsumi (2017-01-24 22:08) 

ワンモア

★caveruna さま
 マッハ9.68って、30秒で100kmですよ(笑)
 
★(。・_・。)2kさま
 降りたら過去に来ていたなんて(笑)

★johncomebackさま
 早いですよね〜10分で日本横断(;^ω^) 東京に行くのに30秒(笑)

★tsumiさま
 ひゃくちゃんが大きくなる頃にはどうなっちゃうんでしょうか。でも普段の生活はそんなに変わらないかなぁなんて(笑)
 タイムマシンとか好きです(^^)
by ワンモア (2017-01-25 09:14) 

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