太平洋戦争末期の1944年11月1日。初冬の抜けるような青空のなか、敗戦が濃厚となってきた日本の東京上空を巨大な飛行機が飛来します。 エンジンを4基搭載した大型の銀色の爆撃機。それが、間もなく東京を壊滅に陥れるアメリカのB-29だとは、帝都東京の多くの国民たちはまだ知るよしもありませんでした。 B-29の日本本土初来襲(八幡空襲)の6月16日から約5ヶ月。ついに日本の首都、東京にもその姿が現れたのです。 このB-29。正確にはB-29爆撃機の派生型で、偵察機仕様のF-13という航空機なのですが、その機首には大きな女性の絵が描かれていました。 彼女の名前は「東京ローズ」。それは日本と戦った米兵たちのアイドルの呼び名でした。今回はそれにまつわるお話を。
米軍機、東京初飛行の機体に描かれた名前は「TOKYO ROZE」
それは全米兵たちのあこがれの女性の名前でした。
◆甘美で絶望的な内容を語る彼女。それは日本のプロパガンダ放送だった。
「太平洋のみなしごさん、貴方が狐の穴みたいなところで戦っている間、貴方の奥さんや恋人はきっと淋しい思いをしているわ。そんな女には必ず誘惑者が現れるのよ。初めてのデートではキスまでするのかしら・・・」
それは、故郷に残した妻子や恋人たちを思い出させる甘い誘惑。死と隣り合わせの任務に向かう米兵たちの気持ちを郷愁と絶望、そして士気を下げ厭戦の気持ちへと誘う内容でした。
このラジオの発信源は東京都の千代田区。NHKの海外放送部門ラジオ東京です。日本は米兵向けに戦意を喪失させるプロパガンダ放送を行っていたのです。
流行りの音楽とニュース、そして短いトークを含むラジオ番組『ゼロアワー』。その番組はすべて英語で報道され、最前線で戦う米兵たちをあっという間に虜にしてしまいました。 その番組の選曲のチョイスも抜群で、その構成センスは日本のプロパガンダ放送であるにも関わらず、多くの米兵たちを釘付けにします。しかし、最大の魅力は音楽の合間に流れる、女性DJの声。その声は、一回聞いただけでハッとするような、ハスキーでセクシー、悩ましげな不思議な魅力を持つ声だったのです。
「可哀想な坊やたち。貴方たちが狐の穴より居心地の悪い塹壕で眠っている間に、貴方たちの奥さんや恋人は他の男とあたたかいベッドで眠っているわ」「米兵の皆さん、ガダルカナル島へようこそ。でも期待してる増援はこないわ。お仲間さんたちの船は全て太平洋の藻屑になってしまったの。可哀想に、貴方たちは完全に孤立して、太平洋の孤児になっちゃったのよ。」
この絶望的な内容とは裏腹に、女性DJの魅惑的な声は、いつも間にか、「東洋の魔女」「東京ローズ」と呼ばれるようになります。何故バラなのかは、その内容にトゲがあるから。
そして、日本上陸の暁には、誰が一番でこの「東京ローズ」を見つけるか。
終戦を迎えて大挙した米兵たちは競ってこのアイドルを探すことになるのです。
しかし、この時にはすでに番組は解散しており、押しかけた米国のマスコミたちは東京ローズは一体誰だったのかを必死で探すのです。
◆東京ローズを探せ!
この当時、米国のジャーナリストたちが、最もインタビューをしたい日本人が3人いました。
トップは、エンペラー・ヒロヒト(昭和天皇)。そしてヒデキ・トージョー(東条英機)そして、なんと3番目にランクインされていたのが、この東京ローズだったのです。
アメリカ大使館での昭和天皇(1945年9月27日フェレイス撮影3枚中の1枚)
どれだけの注目を集めていたのかが分かりますね。しれは戦争中にも関わらず、この東京ローズの映画まで作られる熱狂ぶりでした。
その内容はというと、日本軍に捕まり、強制的にプロパガンダ放送に加担させられている囚われの身の東京ローズを、日本軍から救い出すという、なんともハリウッドらしいストーリーだったらしいのですが・・・。
しかし、中々、東京ローズが見つかりません。そこでアメリカのマスコミは一計を案じ、名乗り出れば独占契約金を出すという広告を打ちます。
◆名乗り出てきた「東京ローズ」しかし・・・。
そして、ついに私が東京ローズという女性が名乗り出てきます。彼女の名は、アイバ・トグリ・ダキノ。彼女はロサンゼルス生まれの米国籍の女性。1941年に叔母を見舞うために両親の祖国の日本に来て、太平洋戦争が始まりアメリカへの帰国の機会を失うのでした。
タイピストの職からゼロ・アワーのDJを続けながらも米国籍を捨てることは拒否した、れっきとしたアメリカ日系人だったのです。
「東京ローズ見つかる!」というニュースに歓喜した米兵たち。彼女をひと目みたいと押しかけますが。
どーん
あれ・・・なんかおもてたんと違う・・・。
この微妙な顔つきの米兵たちを御覧ください(^^)
しかも彼らを一番困惑させたのは、その声でした。艦内で、そして上陸地で聞いていたあの甘美で誘惑的な声の東京ローズ。しかし、目の前に現れた彼女の声は、その時に聞いていた声とはあまりにも違っていたのです。
そう、実は、東京ローズと呼ばれるDJは6人いたのでした。しかし、名乗り出たのは、アイバ・トグリ・ダキノただ一人。彼女は自分のサインにも「唯一の東京ローズ アイバ・トグリ」と書いたそうです。
では、あの米兵たちを魅了した本物の東京ローズはどこへ・・。
実は後の調査で、ゼロ・アワーを担当していた女性DJの6人の中で、ジェーン須山(須山芳江)さんらしいということが分かったといいます。
彼女も日系人だったのですが、その声は「南京の鶯」と言われるほどの「とても真似のできない声」「局を訪れた外国人が呆然と立ち尽くすほど、一瞬で虜にしてしまうような声」だったそうです。
有名になったのはダキノさんの方でしたが、DJとして人気を集めていたのは彼女の方だった様です。しかもジェーン須山さんは、ちゃんと訓練を受けたアナウンサーでアイバ・トグリさんより大先輩。
しかし、彼女は享年29歳、泥酔した米兵が運転するジープに轢かれて死亡していました。その事故の記録は米軍にも、日本警察にも残っていないとのこと。
気になる彼女の写真とその美声は、こちらのサイトを御覧ください
→ オカルト・クロニクル 東京ローズ――誰が伝説の魔女だったか
さて、悲惨な運命はアイバ・トグリさんにも襲いかかります。米国籍のままで日本のプロパガンダ放送に加担したという彼女は、アメリカで国家反逆罪に問われます。
彼女の名誉が回復されたのは、1977年。長い苦渋の時間を味合うことになるのです。
東京に初飛行することになったB-29にも描かれた「東京ローズ」。恋い焦がれたアイドルは、米兵たちの心を魅了したまま歴史の中に消えていくことになります。
◆東京ローズは原爆投下を知っていたのか?
さて、最後に怪しい話を。このプロパガンダ放送は、捕まえた捕虜からの情報を元に、「なぜ、東京ローズはここまで俺たちのことを知っているんだ?」と米兵たちに思わせることに成功しています。
それは、田舎の農場のリアルなエピソードであったり、米軍の動きを見透かされているような内容までありました。
その中に、超極秘の情報までが含まれていたというのです。
「第509航空部隊の爆撃機は、尻に「R」の記号がはっきりついているから、日本軍の高射砲部隊はすぐ見分けられるわよ」
そう、その爆撃機は、エノラ・ゲイ・・・・。詳しくは近日アップする予定のワンモアの裏ブログ、「黄昏怪奇譚」で(;^ω^) 。
◆東京ローズのプラモデルが発売
そんな東京ローズのF-13Aがフジミ模型から発売されます。おそらく再販ですが、デカールが4種類と豊富になっています。ノーズアートだけでも魅力的ですよね。
今回のキットは1機分のキットから1944年の東京ローズと1945年のボックスカー、そして、朝鮮戦争時のヘブンリー・レイデン、スナッグルバニーの4種類が選択できます。発売は2017年6月25日。
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2017-05-12 21:43
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微妙っすねぇ(^^;
by (。・_・。)2k (2017-05-13 17:14)
お話にどんどん引き込まれ、ついに本物の東京ローズのお顔の写真をを拝見させていただきました~
この方たちは戦犯にはならなかったのでしょうね~^^
by ロートレー (2017-05-13 17:56)
米兵の微妙な表情、心中お察し申し上げます(*´∇`*)
by johncomeback (2017-05-13 20:20)
ゼロアワーの6人のうちの1人だった人を昔知っていました。
今はどうしているのやら・・・・
by Cedar (2017-05-13 20:21)
☆ (。・_・。)2k さま
なんか、この米兵たちの表情が好き(笑)。東京ローズって、すっごく憧れだったようですね。
☆ ロートレーさま
そうですね。プロパガンダ放送だけでしたので。米国籍を持っていたトグリさんだけが国家反逆罪に問われました。
☆ johncomebackさま
声が魅力的だったので、米兵たちが一目見たいと大盛り上がり。
の、後ですからね・・・・(;^ω^)
☆ Cedarさま
マジですか(´⊙ω⊙`)。それは凄い!今はどうなされているのでしょうか。
by ワンモア (2017-05-14 06:12)
昔の人の写真の表情って、正直というか何というか、
実に「そのまま」でいいですよね(笑)
by caveruna (2017-05-15 13:20)
☆caveruna さま
そういえば、昔ビデオカメラがまだ普及していない頃の撮影って、みんなカメラにピースしてくれたことを思い出しました(^^)。
by ワンモア (2017-05-15 23:33)