SSブログ

高射砲を空に上げてB-29を撃ち落とせ!防空戦闘機キ109開発秘話〜その1

 高射砲とは何か

 高射砲・・・空にいる敵機を撃ち落とすために開発された火砲を言います。地上部隊にとっては上空から襲いかかる攻撃機や爆撃機は脅威以外の何物でもありません。敵の砲弾を跳ね返せる頑丈な装甲を持つ戦車も、上から狙われると装甲が弱い部分を敵にさらけ出すことになるので簡単にやられてしまいます。
 なので、各国では軍用機の開発と共にそれを撃ち落とす高射砲の開発にも力を入れ始めます。
 大日本帝国海軍では高角砲(こうかくほう)と呼んました。低空で進入する敵機を攻撃する比較的小口径の機関砲を「対空砲」「高射機関砲」と呼ぶことも多いのですが、英語ではいずれもAnti-aircraft Cannonと呼ばれています。またドイツ語のFliegerabwehrkanone 由来の「FLAK」が英語圏でも多く使われています。
 ドイツでは8.8cm(
FlaK 18, FlaK 36, FlaK 37)、通称「アハト・アハト(88の意味)」という名で将兵たちの絶大な信頼を受け、連合国からは恐れられた88mm高射砲は超有名です。

1024px-Flak18-36.jpg
本来空に向けて撃つ高射砲を対戦車用として使用して
大きな戦果を上げた、88mmFlak18


 当時の日本
陸軍の主力の高射砲は八八式野戦高射砲(75mm)九九式八糎高射砲(88mm)でした。それぞれ2,000門、1,000門近くが生産され、本土防空の主役を担いました。高射砲の一個中隊は75〜120mmまでの高射砲を4門、一個連隊では32門程度の高射砲を備えていました。
九九式八糎高射砲.jpg
八八式野戦高射砲(左)と九九式八糎高射砲(右)

 八八式野戦高射砲(75mm)を操作するには、要員は12名。最低でも4名は必要です。初速は720m/秒、最大射高は9,100m。
 陸軍の飛行場や要地には必ずといっていいほどこの高射砲は配備されていました。


高射砲を空にあげて敵機を撃ち落とせ!

 アメリカのB-17重爆撃機との戦闘は、昭和17年には始まっています。この巨大な爆撃機を撃ち落とすには、零戦の20mm機銃が一番効果的で、当たりどころがよければ一発で撃墜できる威力を持っていました。
 しかし、この20mm機銃、初速が遅く、"ションベン弾"と評されたように弾道が下がりやすく命中させるのが難しい代物。
 しかも構造が弱い零戦の翼内では、主翼がたわみ、照準に狂いが生じることも頻繁でした。 命中させるのはかなり近距離まで近づいて射撃しないといけないのですが、12.7mm機銃で防御をがっちり固め”空の要塞”とまで言われているB-17を撃ち落とすのは、正に命がけの接近になります。
 さらには、B-29という更に強力な爆撃機が生産されている情報も届きます。予想される事実は、日本の本土攻撃の際にはこのB-29が主力となって襲来してくるということ。
 
B-17&B-29.jpg
B-17(左)とB-29(右)

 日本本土防空の任は当初は陸軍が中心にあたりましたが、確実に襲来してくるであろう、高度一万メートルを飛来してくるこの大型爆撃機を向かうつにはどのような戦闘機が必要か。首脳部は対策を練ります。
 海軍では「乙戦」
といって、対大型機用局地戦闘機(電や雷の字がつく)雷電紫電改などが、陸軍では飛燕屠龍が対抗策として上げられました。また、百式司令部偵察機や夜間戦闘機の月光なども斜銃を搭載すれば迎撃に効果が得られるとして改修を受けています。
 なかには九四式37mm対戦車砲という、対戦車砲を搭載した「屠龍」も迎撃にあたってます。
迎撃戦闘機.jpg
日本の迎撃戦闘機たち

 しかし、これらの戦闘機たちの共通した悩みがありました。これは日本機全体の欠点ともいうべきもので、高高度性能があまりにも悪かったのです。
 排気タービンのないエンジンでは、なんとか高々度の上空に上がっても、B-29を撃墜するにはワンチャンスのみの、一撃必殺でいかないといけません。攻撃の際に一度失った高度を取り戻すことは不可能に近かったのです。
 では、どうするか。チャンスをモノにするには、大口径の機関砲が望ましいことがわかってます。
 しかし、今までの機関砲では、大きな威力と引き換えに初速の遅さがあり、敵機にかなり接近しないといけません。しかし、相手を撃墜する前にこちらが墜とされることも充分考えられます。従来の航空用の大口径機関砲はすべて要求に合わなかったのです。

「あぁ、いっそのこと、高射砲を飛行機に搭載して空中から撃ったら・・・」

 開発担当者たちはこんなアイデアを思いつきます。
当時、効果的な成果を上げていたのが地上からの高射砲でした。実は、戦闘機たちよりも敵機を撃ち落としているのです。これはドイツも同様で、ドイツ戦闘機によって撃墜したアメリカの戦闘機よりも、ドイツ高射砲部隊による撃墜の方が上回っています(1:1.25)。軍用機たちにとって最大の敵は戦闘機ではなく、地上からの攻撃だったのです。
 しかし、地上一万メートルでは狙いを定めるのはかなり困難になり、そこまでの高度を得る高射砲も限られていました。
 ならば、高射砲を敵機に確実に届く上空まで上げてしまえばよいではないか・・・。こう考えるのも無理はないかもしれませんね。


こういう感じです。
キ109_射撃.jpg
これを・・・こうしてしまおうというアイデアですね。
ki109_01.jpg

 初速が大きな高射砲なら約2,000mは真っ直ぐに飛ぶので、零戦たちの搭載している20mm機関砲のような初速の遅い”ションベン弾”になることはありません。その上、初速も早く遠くまで真っ直ぐ飛ぶのでB-29を後方2,000mから追尾して撃てば、相手からの反撃を食らうこともありません。
 つまり、心配することのない安全な距離からB-29を狙って砲弾一発で確実に撃墜できるという目論見がありました。ナイス・アイデアですね。
 これに合う、高射砲として
八八式野戦高射砲が選ばれることになります。

大東亜決戦機&八八式75mm高射砲のキ109の開発

 さて、アイデアは良いとして、あとはこれだけの大型の高射砲を搭載できる飛行機があるかです。装填には砲手もつけないといけないので小型の戦闘機では到底ムリです。陸軍はこの問題を解決するために昭和18年11月に大型防空戦闘機の試作を三菱に指示します。

・できるだけ大口径の火器を多数搭載できること。
・小型戦闘機と同程度の軽快な戦闘飛行ができること。
・高度一万メートルでも戦闘飛行ができること。
・量産が容易であること。

 いつものような無茶振りの要求です。ゼロから設計するには時間が足りません。しかし、ちょうど、この要求にうってつけの機体がありました。それが昨年初飛行したばかりの陸軍四式重爆撃機「飛竜」(キ67)
 この飛行機、重爆撃機なのになんと宙返りもできるという軽快な運動性!最高速度も537km/h、航続距離3,800km、2千馬力のハ104発動機も排気タービンが備わる予定。防弾防火装置も十分考慮され、日本機の弱点を完全カバーした機体ということもあり、この飛竜が新しい防空戦闘機の母体となる条件は全て揃っていました。

飛竜.JPG
やたら長い機首は欠点だった縦安定性を持たせるため

 話が前後しますが、この「飛竜」は、四式戦「疾風」と共に「大東亜決戦機」として選ばれ、日本陸軍機の中でも最も重要な航空機として生産に特化することになります。
 この「飛竜」と同時期で似たコンセプトの爆撃機は海軍の「銀河」です。一式陸攻の後継機は「銀河」ですが、これは空技廠が開発したもの。一式陸攻と同じ三菱の技術陣が開発したこの「飛竜」こそが真の一式陸攻の後継機ともいわれています。

 さて、この期待がかかった、大型飛行機&75mm高射砲の組み合わせ。キ109の名を与えられ、特殊防空重戦闘機として開発されることになります。
 どこの国もここまでの大口径の砲を搭載することはありませんでした。その開発は果たしてうまくいったのでしょうか?その苦難の開発とその成果は次回に続きます。


Mitsubishi_Ki-109-1.jpg
 開発中のキ109。上手くいったのかなぁ(;^ω^)

こんな記事もどうぞ

来たよ(40)  コメント(4)  トラックバック(0)  [編集]
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 40

コメント 4

ys_oota

おお、これは面白そうです!
by ys_oota (2017-06-08 01:13) 

johncomeback

上手くいったのかなぁ、次記事が待ち遠しいですo(^o^)o
by johncomeback (2017-06-08 07:53) 

caveruna

なんかしょっちゅう北から飛んできていますが、
何を考えているのかしらね(苦笑)
by caveruna (2017-06-08 11:13) 

ワンモア

☆ys_oota さま
 脱線しそうですが、なかなか興味深い勉強になりました(^^)

☆johncomebackさま
 予想は・・・つくかと思います(;^ω^)

☆caverunaさま
 物騒ですよね・・・(´・ω・`)

by ワンモア (2017-06-10 09:22) 

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました
Copyright © 1/144ヒコーキ工房 All Rights Reserved.

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。