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異色のデザインにとりつかれた技術者。リヒャルト・フォークト


 前記事で「飛行機の姿を見て、ああ奇麗だな、と思うようなものでなければその飛行機は良くならない」なんて言葉を紹介しましたが、それを聞くと反発するようなヒコーキたちを設計してた人をご紹介。


日本に航空技術を教えたリヒャルト・フォークト博士

 今回取り上げる方はドイツの設計者、リヒャルト・フォークト博士(Richard Vogt:1894〜1979)です。この方、第二次大戦前の日本にも来日し、10年間も日本の川崎航空機で主任設計技師として軍用機の設計に携わっていた方なのです。当時若かった土井武夫(三式戦「飛燕」の設計者)の育成にも当たっていて日本にも縁の深い方なのです。

川崎航空機 .jpg
リヒャルト・フォークト博士が手がけた日本の航空機たち。

メーカーブローム・ウント・フォス社へ

vogt-richard-1.jpg
Richard Vogt:1894〜1979
 博士は、1933年にはドイツに戻り、航空機部門の筆頭としてブローム・ウント・フォス造船所に招聘されます。
 川崎航空機も元々は造船所なので、当時は造船→飛行艇→軍用機製造という流れもあったんですね。
 
フォークト博士も飛行艇で有名なドルニエ社に所属していましたのでブローム・ウント・フォスとの相性もよかったのではないかと思います。
 
 さて、ブローム・ウント・フォスでは、Ha136練習機Ha137爆撃機BV138(Ha138)洋上偵察飛行艇など、デザイン的には普通の航空機を手がけていきます。

 BV138などは3発機でコブのような背中の搭載がユニークですが、特に斬新という感じではありません。
Blohm & Voss BV 138.jpg
小池繁夫氏の描くBV138

 で、面白くなってくるのはここからで、Ha139長距離水上機(陸上型はBV142)は4発エンジンの大型水上機であるにも関わらず、母艦からカタパルト射出が可能な機体なんです。

Cap 551.jpg
逆ガルウイングが特徴的なHa139(原型機)
BV 222.jpg
二式大艇より大型の飛行艇、BV222

フォークト博士の”何か”が始まる(;^ω^)

 さて、ドイツでも戦争が近づいてきた緊迫感が出てきた1937年。ドイツ航空省は単発三人乗りの短距離偵察機の製作を各メーカーに打診します。
 結果的に採用されたのはフォッケウルフFw189という飛行機なのですが、対抗馬として最後まで争ったのがフォークト博士の提出したBV141という飛行機。

 

Blohm_und_Voss_Bv141.jpg
えっと・・・凄い違和感が・・・。
Blohm_und_Voss_Bv141_rear.jpg
水平尾翼もとんでもないことになっています。

 実はこのBV141、対抗馬のFw189よりも性能が良かったんです。コンセプトである偵察機という、視界が十分確保できる上に単発エンジンですからコスパも良いです。速度も航続距離もFw189より勝っていました。
 
しかし、その奇抜な外見ゆえに、使うのに恐れをなしたのか、航空省は堅実なデザインのFw189を採用することにしました。しかも自分たちで「単発機でお願い」とメーカーに打診しておきながら、それを無視したFw189の方が「やっぱ双発で安全なので」ということで採用するなんて、なんと都合のよい話なんでしょう(;^ω^)
 
Fw189.jpg
採用になったフォッケウルフFw189。見晴らし最高!

 さて、ここからが、フォークト博士のこだわりというか変質というか、何かが始まります(笑)。今まで普通のデザインをしていたはずなのですが急に何かに取り憑かれたかのように、多種多様の左右非対称機を設計し始めます。
 採用されなかった悔しさなのか、何か博士だけに見えた非対称機の可能性があったのかそれは分かりませんが・・・。うーん。
 ブローム・ウント・フォス社に残された計画仕様書には、Pナンバー(計画機)で非対称の機体が数多く残されています。

3bb178.jpg

ジェットエンジンを片翼だけに配置
BV P.204.jpg
レシプロエンジンとジェット機の混合機

 これに至っては、「既存のデザインは絶対にするもんか」という信念に基いて行ったとしか思えません(;^ω^) 。フロートも左翼に一個、エンジンは3発。さっき紹介したBV138の面影があるだけに、見ているとなんか目がぐにょーって変になってきます(笑)。なんか、絵画で言うと、写実派の芸術家が、急にキュビスム(ピカソの絵画)に目覚めてしまった感じなんでしょうかね・・・。 
 その他にもW型の前進翼機、そして可変翼機のデザインなど、戦後アメリカでテストした機体を思わせるデザインも。
 堅実なデザインで大型機も設計できる優秀な技術者で日本の航空機の発展にも貢献したフォークト博士、
非対称機がマイブームになってしまったのか(笑)、おかげでトンデモ機とか、珍妙機の代表とまで言われるように・・・。おかげでプラモデルは大人気(笑)。でもこれ、適当にパーツを組み立てたの?との思われそう。決して変人設計者ではないのですが・・・。

BvP170.jpg
Bv P.170 の模型。これもすごいなぁ。

 その証拠に戦後は、ペーパークリップ作戦(ドイツの優秀な技術者を大量にアメリカへ連れてくる作戦)に引っかかり、アメリカに渡り、数々の研究に携わります。
 それは垂直離着陸や水中翼船、はたまた原子力爆撃機といった分野にまで及びます。しかし、最大の功績は、
翼端渦の抵抗を少なくする研究成果を出したことでしょう。現代では、ウイングチップやウイングレットという名称で多くの旅客の標準装備ともなりつつあります。
Cap 46.jpg
燃費を向上させる効果があります。
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 アメリカでは非対称機のデザインは行っていないようなので、マイブームが去ったのかなと邪推しております(;^ω^) 。でも、翼の先端が枝分かれするようなデザインのアイデアも奇抜といえば奇抜ですよね。

 退職後は転覆しない安全ヨットの設計や自伝の執筆で余生を送っており、1979年、カルフォルニア州で84歳でお亡くなりになりました。
 長年同じことを行っていると、急に新しいことにチャレンジしたくなるもんですが、この方のデザインを見ていると、なにかそんな気がします。

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この方の研究成果は現代も活かされているんですね。

<関連記事>
→最近トレンドのウイングレットについて〜翼端渦と翼型の話その2
→フォッケウルフとクルト・タンク
→変わり種飛行機の模型 Bv P178 ジェット急降下爆撃機が発売


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コメント 3

johncomeback

BV141って実際に作られたんでしょうか?
これって真っ直ぐ飛ぶのかなぁ?c(゚.゚*)エート。。。
by johncomeback (2017-06-14 15:39) 

caveruna

やっぱり変わった形は、モデラーの心をくすぐりますね^^
by caveruna (2017-06-14 17:41) 

ワンモア

☆johncomeback さま
 実際に飛んで性能も良かったみたいです(笑)おそらく非対称機もちゃんと飛べるんだということが分かって取りつかれてしまったのではないかと・・・すごい分かる気がします(^^)

☆caverunaさま
 いやー、思い切りくすぐってくれます(笑)
by ワンモア (2017-06-15 15:52) 

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