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空戦史の伝説の名著『北欧空戦史』が復活発売


航空戦史の傑作と言われた名著『北欧空戦史』

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 戦史というものは、民族の存亡がかかりますので、人間の極限状態に近い状態での知恵や能力が発揮され、色々と深い勉強になることが多いです。
 古くは『ペロポネソス戦争史』や『ガリア戦記』など。脚色が大分入ってしまいますが『三国志』も面白いですよね。
 クラウゼヴィッツの『戦争論』などを読むと、いかに現代の日本が「戦争と平和」に対して甘い幻想を抱いているかが分かります。


 さて、数ある戦史の中でも近代戦史では、陸戦、海戦以外に空の戦い、空戦史というものが生まれました。
 その中でも傑作中と傑作と言われた『北欧空戦史』がようやくというのでしょうか、復刻版が8月にホビージャパンから発刊されることになります。

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「北欧空戦史」学研M文庫版

『北欧空戦史 ―なぜフィンランド空軍は大国ソ連空軍に勝てたのか』(中山雅洋著)というタイトルです。
 朝日ソノラマ文庫(1982年刊)→学研M文庫(2007年刊)で発刊されていたのですが、長らく絶版となっており、Amazonなどでは定価の数倍以上の値段に跳ね上がっておりました。
 今回、この書籍が発刊となって、価格が急落しております(^^)。

 表題に加えノルウェー、スウェーデンの空の戦いも収録されていますので期待大ですね。


フィンランド戦争の背景 

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 この北欧空戦史の舞台は、フィンランドです。
 当時ナチス・ドイツと戦うため、イデオロギーの異なるソビエト連邦と手を組んだアメリカやイギリスの西洋諸国は、ソ連周辺の侵略行為に対して黙認せざる負えませんでした。
 最大の犠牲になった国は、ポーランドでしたが(ドイツとソ連の両側から侵攻され国家消滅)、ソ連の侵略の魔の手は隣国のフィンランドにも及びます。

歴史的にはこんな感じ
1939年8月  ソ連とナチス・ドイツとの間に相互不可侵条約。
    
9月 ポーランド侵攻(ドイツとソ連の結託)
     11月 ソ連とフィンランドの間で「冬戦争」勃発
1940年2月 ソ連がバルト三国へ進入。併合
          4月 ドイツがデンマークとノルウェーに侵攻、占領。
          5月 ドイツがベルギー、オランダ、ルクセンブルクへ侵攻、占領。
          6月 フランスがドイツに降伏。 
1941年6月ドイツの独ソ不可侵条約の破棄とソ連侵攻。
      ソ連とフィンランドの間で「継続戦争」が勃発(1944年9月まで)
    12月 日本がアメリカへ宣戦布告 太平洋戦争が始まる。

 このように列強国の覇権争いの波に小国たちは次々と飲み込まれていきます。 

ソ連の2度の侵略から独立を守りぬいたフィンランド

<冬戦争の始まり>
 
ソ連のフィンランドに対する侵攻は、1939年11月30日から始まります。明らかな侵略行為に対してソ連は国際非難を浴びることになり国際連盟から追放されますが、そんなことは何らの実効性も持ちません。まあ、今も似たようなものですね。
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 スターリンは、フィンランド軍の3倍もの兵力を投入すれば、1ヶ月もかからずにフィンランド全土を制圧できると考え、100万の兵と6千両を超える戦車、そして3800機もの航空機で侵略をしてきます。
 しかし、ここで思わぬ反撃に遭います。対するフィンランド軍は25万の兵とわずか30両の戦車。そして130機の航空機だけでした。
 フィンランド軍マンネルヘイム元帥(後に第6代大統領)率いるフィンランド軍の粘り強い抵抗の前に非常な苦戦を強いられたのです。

 スターリンの当初の目論見は崩れ、フィンランドは1940年3月まで戦い抜きました。しかし、長引けば不利になっていくのは国力の差からも明らかです。日露戦争の日本と同じく、どこかの妥協点で講和条約を結びます。その結果は、最終的に国土の10%、工業生産の20%が集中する地域をソ連に譲り渡すという屈辱的な条件ではありました。

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冬戦争の集結でフィンランドが
ソ連に割譲した国土(赤の部分)

 これが俗に言う「冬戦争」と呼ばれる期間で4ヶ月あまりの戦争でした。もちろんスターリンはこの結果に満足できず国防相に怒り狂ったといわれています。

 隣のバルト三国がソ連領化されるとフィンランド国内ではソ連に対する脅威感が更に高まります。連合国があてにならず、北欧諸国も当てにならず、共産圏の脅威が忍び寄るフィンランドは枢軸国ドイツとの関係を深めざるおえませんでした。ソ連に対抗するにはドイツの物資に頼るしかなかったのです。これが戦後、枢軸国へ見方としたということで仇になりますが、苦渋の選択であったと思います。

<継続戦争の始まり>
 冬戦争の終結後の1年後あまりの、1941年6月22日。ドイツがソ連攻撃を開始すると、フィンランドは再び戦争に巻き込まれます。これが「継続戦争」といわれるもので、その期間は1941年6月25日 から1944年9月19日までの3年にも及びました。

 フィンランド空軍の各パイロットたちが奮闘したのはこの2つの戦争です。『北欧空戦史』はこの活躍を描いている訳です。 

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他国とは違い、ドイツからは最新鋭のBf109Gが送られてきました。


 フィンランドは継続戦争で冬戦争以上の多大な犠牲を払いましたが、圧倒的な戦力差を誇っていたソ連軍の方が、またしても大損害を被ります。
 しかし、今度は味方についた枢軸国のナチス・ドイツ側が不利でソ連の攻勢が有利なため、講和が難航します。休戦条件としてソ連が出してきたのは、「駐留しているナチス・ドイツをフィンランドから排除せよ」というもの。今度は、そのために今まで仲間であったナチス・ドイツ側と戦争をせざる負えません。これがラップランド戦争(1944年9月〜1945年4月)と呼ばれるものです。もう、昨日までの味方が敵になったり複雑な世界です。
 結局、戦争終結は1944年の9月19日にソ連側に有利な条件ともいえる内容で、ようやく終わります。しかし、フィンランドは侵略してきた巨大な大国ソ連に対して勇猛果敢に抵抗し、独立を守りぬきました。

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 戦後は国を守るためにナチス・ドイツと手を組んだことが仇となり、世界から敗戦国の扱いを受け、ソ連の属国化のような不遇の時期を過ごします。
 それでも戦後の東欧のような、衛星国やソ連軍の進駐、武力侵攻などを受けることなく、かつての徹底的な抗戦魂と、従属外交を使い分けて独立と平和を守りつづけました。

フィンランド空軍機の魅力

 このフィンランド軍の戦いは、にミリタリーファンを魅了していて人気が高いのですが、それは、大国に対して圧倒的兵力差の小国が果敢に独立を守るために戦って、最終的に民族の独立を守り抜いたという点があると思います。さらには、少ない人材と資源を創意工夫と士気の高さで戦った点も。

 その中でも特にフィンランド空軍は、世界各国の飛行機を寄せ集めた少数精鋭の部隊であったことも魅力の一つかと思います。
 他の地域では戦い合っているライバル同士の軍用機機たちが同じフィンランドの国籍をつけて同じ空軍として戦っているのは惹かれるものがありますね。

 また、ソ連にもアメリカ製のP-39エアコブラなどが供与されていますが、同じくアメリカ製のバッファローと空中戦をするという変な話にもなっているところも小国ならでは魅力なのでしょう。

フィンランド空軍で使用した主な軍用機
ソ連:I-16、I-15、Lag-3
オランダ:フォッカーD21(冬戦争時の主役)
フランス:モラーヌ・ソルニエMs406
イギリス:ホーカー・ハリケーン
アメリカ:ブリュースターバッファローB-239(継続戦争の主役)、P-40
ドイツ:メッサーシュミットBf109G(継続戦争後半の主役)、Ju88
イタリア:フィアットG50
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(クリックで拡大)
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 これ全部、プラモデルの箱絵なんです。
 ということは、フィンランド空軍仕様の機体が人気があるということを物語ってますね。どれがどの機だか分かる方はかなりのマニアです(笑)。 カラーリングが違うだけで、大分印象が異なりますね。
 箱絵の機体にはナチス・ドイツと同じ形のハーケンクロイツということで、自主規制や勝手な忖度が働いておりますが、フィンランド空軍のマークは「ハカリスティ」といって、ハーケンクロイツとは無関係な伝統的な幸運のシンボルです。

 
上記の様々な軍用機を、購入したり、ライセンス取得して生産したり、同盟国から供与されたり、はたまた、ぶんどった鹵獲機だったりで使い熟した訳です。
 その飛行機たちは、どれも少数であり貴重な扱いを受けていて、敵地に不時着した機体を回収しにまで行ったエピソードなども残されています。
 特に、ブリュースターバッファローB-239は、
太平洋戦争では、零戦や隼にバッタバッタと撃ち落とされ二戦級の扱いでしたが、フィンランド空軍では「空の真珠」と称されて大活躍を見せます。
 このアメリカ産のバッファローに惚れ込んだフィンランド軍は自分たちで海賊版(VLフム)という戦闘機を開発するほどの入れ込みようだったとか。

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 供与されたB-239の44機のうち、損失は21機(事故も含む)にも上りましたが、ソ連機を456機撃墜するという、21:1という圧倒的な勝率で35人ものエース・パイロットを生み出しました。
 このような他国の戦史にはない、エピソードが満載の『北欧空戦史』。私も朝日ソノラマ版と学研M文庫版と持っていましたが、今回の復刻版も楽しみですね。初心者にもオススメできる戦史です。
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定価1,728円(税込)です。送料無料の楽天ブックスやAmazonがオススメかと。

以前の学研M文庫の『北欧空戦史』も大分安くなりました。
【駿河屋】中古文庫『北欧空戦史 / 中山雅洋』


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コメント 10

いっぷく

黄色と黒のカラーリング、まるでスズメバチのようですね。
by いっぷく (2017-07-19 22:54) 

ワンモア

☆いっぷくさま
 こんばんは〜、言われてみるとその通り(^^)
 フィンランドカラーって言って、これ塗るとみんなフィンランド空軍に見えます(笑)ブルーのハカリスティが映えるんですよね(^^)
by ワンモア (2017-07-20 19:47) 

ロートレー

北欧デザインのフィンランドがソ連相手に戦い抜いた根性の座った国だったのですね~!
見直してしまいました。
by ロートレー (2017-07-20 21:47) 

johncomeback

拙ブログへのコメントありがとうございます。
松戸に住まわれていたんですか、松戸は交通の便が良いですね。

by johncomeback (2017-07-20 22:16) 

Cedar

何処かの国の首相が、防衛力を強化しないとフィンランドみたいになる、と頓珍漢なこと言ったのを思い出します。
by Cedar (2017-07-20 22:48) 

ワンモア

☆ロートレーさま
 フィンランド人は日本人と気質が似ていると言われるそうですね(^^)

☆johncomebackさま
 松戸は住むには良いとろこでしたよ〜(^^)

☆Cedarさま
 安倍総理のことでしょうか。おそらく、戦後の外交安保路線の「フィンランド化」のことを指しているのではないかと。弱小国が隣国の強大国から独立を守り抜くためには、黙従していく路線しか選択肢がなかったために戦後ドイツから出た言葉です。
果敢に戦ったその裏では、このような屈辱的な外交も耐え忍びながら独立を守り抜いた事情がありました。
日本も防衛力を強化しないとフィンランド化してしまう可能性は大いにあると思いますので(すでになっている可能性も)頓珍漢な言葉ではないと思います。
by ワンモア (2017-07-21 06:57) 

笠原嘉

ランチェスター戦略だとこちら側3で相手が1の戦力なら
勝てる。フィンランドが何故勝ったのか。普通では全く
考えられない。
要するに数より質といふ事か。
勉強になりました。

ありがとうございます。
by 笠原嘉 (2017-07-21 09:59) 

ワンモア

☆笠原嘉さま
 こんにちは。フィンランド戦史が人気な理由が、正に普通なら負けてしまうような戦力に対して質で対抗したからなんでしょうね。
 一方、ソ連は、粛清の結果、優秀な将官たちがいなかったこともありますが。
by ワンモア (2017-07-21 10:22) 

隊長

フィンランドにそんな歴史があったのでしたか。知りませんでした。勉強になりました。
by 隊長 (2017-07-22 13:28) 

ワンモア

☆隊長さま
 こんにちは〜。フィンランド人の気質は日本人と似ているそうで、興味があって調べていたら、色々と出てきました(^^)
by ワンモア (2017-07-22 17:13) 

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