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キレイな流れと乱れた流れ。揚力の話〜その2

翼にできる空気の層

 随分前の記事になりますが、「飛行機が飛べる理由」を取り上げてみました。飛行機が飛べるその原理を説明をするのは割と難しく、航空力学や解説書でも間違った内容であったり、不充分な説明のままであるという内容でした。→飛行機が飛べる訳。揚力の話〜その1
 また「翼とは翼断面や迎角をうまく作ることで、翼の周りの気流の循環を発生させ、結果的に揚力をつくる装置である」ということも紹介してみました。
 翼の迎角や翼断面、気流の循環などの条件が組み合わさるとことで、揚力(浮く力)が翼に発生するのですが、今度は実際にどのような気流が翼には流れているのかを見ていきましょう。
コンコルド.jpg
コンコルドの翼は他の旅客機に較べて薄かったですね。

 翼の表面には、空気が流れることになりますが、翼との摩擦によって、流速は遅くなります。この部分を「境界層(きょうかいそう)」と呼ぶのですが、この空気の層には層流層(そうりゅうそう)、乱流層(らんりゅうそう)とあります。
 層流層は翼の表面に流れる空気がスムーズな流れを指します。いわば飛行機にとっては理想的な流れ。空気抵抗も少なく、翼にとってもとてもベストの状態です。理論では理想的な状態なので、この層流を生み出そうと「層流翼」なるものも生み出されました。しかし、反面、この層流層は表面の汚れとか、流れの変化に敏感で、剥離もし易いという欠点があります。剥離が生じるとどうなるか。いわば失速(しっそく)という現象が起きます。揚力が失われるのですね。


剥離現象.jpg剥離を起こした翼の断面模型


 それでは翼に生じる剥離を起こしにくくするためにはどうすればいいのでしょうか。これはわざと層流とは反対の乱流を作り出し、空気の粘性を応用して翼の表面から剥離させないようにすれば良いわけですね。しかし、これは空気抵抗が大きくなるという欠点があります。

 層流と乱流、こっちを立てればあちらが立たずで、どっちを採用すれば良いのかという話になりますが、現実の自然界では乱流が殆ど。翼の前(前縁)の方では層流である場合も多いのですが、多くの領域では乱流層に設計するのが一般的となっています。
 後退角を持ったジェット機などでは、意図的に渦を作り層流を崩し乱流領域を作るボルテックス・ジェネレーターを配置した機種も多いです。


ボルテックス.jpgこんなの。車にも応用されていますね。


 車の世界でも気流の流れは抵抗となって燃費に直結してきます。
高速走行中に車の背後に生じる巨大な渦は大きな走行抵抗になるのですが、このボルテックス・ジェネレーターで逆に小さな渦を発生させることにより大きな渦の発生を抑え抵抗を減少させる効果があるそうで。スポーツカーなどにもありますが、実際どの位燃費が変わるのか、気になりますよね(*^^*)
 

 トヨタではエアロスタビライジングフィンと呼ばれ、近年発売される殆どの車のテールランプに一体成型で取り付けられているそうです。
Cap.jpg
 エアロスタビライジングフィン。気流に小さな渦を発生させることで車体を左右から押さえつけて、操縦安定性を確保します。

失速を抑える様々なデザイン

 さて、飛行機にとってとても怖い「失速」という現象をなくすために様々な装置やデザインがされてきましたし、今もその研究はされています。零戦の主翼翼端の捩り下げデザインは翼端失速を防ぎ、零戦の空戦性能を上げる一役になったことは有名です。


m_zeroEFBC8696.jpg
翼端捩り下げを取り入れた九六式艦戦と零戦
Cap2040-8e7d5.jpg
F-15のクリップデルタ翼 
ドッグトゥース.jpg
主翼の前縁に鋭い切込みを入れたドッグトゥースというデザイン


 このように乱流をわざと発生させ、境界層剥離を減少させるのが一般的ですが、層流は層流で理想的な空気の流れでもある訳で、なんとか取り入れたいのも技術者たちの夢である訳です。次回は層流翼に関して、話題のホンダジェットとアメリカの名戦闘機P−51マスタングとの意外な関係をご紹介します。

<関連記事>
→意外と怖い翼端渦が巻き起こす後方乱気流〜翼端渦と翼型の話その1

→最近トレンドのウイングレットについて〜翼端渦と翼型の話その2

<参考にさせていただいたサイト記事です>
→ラングレイの層流- NACA Report 824 から読む層流翼の真実 -
→飛行機はなぜ飛ぶかのかまだ分からない??  翼の揚力を巡る誤概念と都市伝説


<今日の成田>
今日の夕飯.jpg

お買取品を色々買ってきて何を作るか考えましたが、今夜はすいとんにしました。
すいとん.jpg
 段々と暖かくなってきましたね〜。鍋ものもそろそろ終わりかもしれません。

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来たよ(35)  コメント(9)  [編集]
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コメント 9

Hide

すいとんは美味しいですよね〜身体も心も温まります!
すいとんの術は難しくて出来ませんでしたが料理なら!
by Hide (2018-03-03 17:12) 

johncomeback

前記事もそうでしたが、今回も理解率60%です(*´∇`*)
by johncomeback (2018-03-03 19:18) 

横 濱男

ここ2~3日暖かいですね。
なので、お鍋には暑いのでビールがいいかな。(^^)
by 横 濱男 (2018-03-03 21:20) 

ys_oota

翼の形はいまだに研究されている分野なのですね。しかも表面の汚れも性能に影響するなんて、流体力学は奥がふかいなぁ。
(´Д`)
by ys_oota (2018-03-03 22:42) 

足立sunny

鳥の場合は羽ばたけますので事情が違うでしょうが、先日ななめ降下飛行中(水に飛び込む少し前)に前方水門にぶつかりそうになって急激にスピードを落とし羽を変な角度で広げ尾羽を直角に立て急ブレーキ状態で水に突っ込んだカワセミをみました。うちのブログに貼りつけましたが、故意に失速しようとしたその両羽の形が何か変にゆがんでました。
しかし、飛行機の羽と機体浮上、推進の謎は深そうですね。
by 足立sunny (2018-03-04 05:59) 

ロートレー

飛行機を自作したい者としては、表面のでこぼこは製作上避けられないので、乱流層理論をよりどころにしたいですね^^。
そうすると、スプレーガンではなく、ローラーで塗装できるし,表面のサンディングもそこそこで良いとなれば乱流層理論に頑張ってほしいです。^^

by ロートレー (2018-03-04 14:26) 

ロートレー

思いだしました。以前から常に疑問に思ってきたのですが
翼端失速対策として、翼端の捻じり下げは、自作飛行機にも取り入れられているものがありますが、一般的に主翼の製作は難しくなり、工程、製作時間がネックになります。
実際問題として、最高速度160Km程度の低速機(ULP)の場合、翼端の捻じり下げ対策をしていないケースが多いですが、
機速が低速の場合の翼端失速の発生リスクは、無視できる程度の影響であると考えてもよろしいのでしょうか
アドバイスいただけたら幸いです!
by ロートレー (2018-03-04 14:53) 

caveruna

GWの頃のような陽気になりました。アイスを食べ歩きしている人を多く見かけた週末でした^_^
by caveruna (2018-03-04 21:52) 

ワンモア

☆Hide さま
 すいとん、うどんとは違う味がありますよね。
☆johncomeback さま
 いつもありがとうございます。難しくてすみません(;´Д`)理由は、自分が完全に理解していないからなんですよね。次回はもっと分かりやすい記事になるかと思います。
☆横 濱男 さま
 お鍋にもビールですよね〜これから大量消費の季節ですなぁ。
☆ys_oota さま
 層流翼は実際には表面加工の難しさもあってあまり効果がなかったようです。詳しくは次記事で。
☆足立sunny さま
 鳥の羽の動きも神秘的ですよね。撮影素敵です(*^^*)
☆ロートレー さま
 翼端の捩り下げ加工ですがそういえば、他国ではあまり見られないですね。もっと簡単な加工技術で同様の効果が得られるようになったからでしょうか。
 模型工作の場合は、レイノルズ数も変わるのであまり効果の差異が出ないように思いますが・・(*^^*)
☆caveruna さま
 ポカポカした陽気で外出が気持ち良かったですよね(*^^*)

by ワンモア (2018-03-05 16:50) 

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