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ここに一冊の本があります。PHPから発売されている『空の上の超常現象』という本で、著者はM・ケイデン、野田昌宏[訳]ですが、これがなかなかマニアックで面白いです。この著者、マーチン・ケイデンという人は元々は航空関係の評論家で雑誌にコラムなどを掲載している人で作家としても活躍をしていました。1964年、『宇宙からの脱出』で作家デビュー。同作は映画化もされている方です。(1997年没69歳)
今回はこの書籍の中から印象の深かったものを、内容をかいつまんでご紹介します。
帰ってきた搭乗員
第二次大戦初期、ドイツ空軍の攻撃にイギリスが苦闘していた時期のこと。激闘のバトル・オブ・ブリテンで勝利し、英国本土侵攻作戦を食い止めたものの、次なる反撃に備え戦力を増強し、搭乗員を休憩させ、新型機を導入しなければならなかった。 こうして導入されることになった機体のひとつにダグラスDB-7ボストンがある(アメリカではA-20ハボックとして知られている)。元々はフランスがアメリカのダグラス社に発注して生まれた機体だが、引渡しされる前にフランスはドイツに降伏してしまったのでイギリスが引き取ったのだ。この高速で大馬力のエンジンを搭載し1トン近い搭載量を持つ爆撃機は、ドイツに対して反撃を加える切り札として注目された。
さて、ドイツへの反撃を行うことになって策定された作戦は大胆なもので、超低空で侵入して爆弾を投下し、そのまま一気に脱出してくるというものである。極秘重要任務ということで、作戦立案をした空軍将校自身が閲兵するほどの物々しさになった。12機のボストン爆撃機が出撃し、作戦立案をした空軍中将はその戦隊の成功と彼らの帰還を執務室の中で待ちわびていた。
やがて予定の時間が来た。遠くから聞こえるエンジン音。その音は苦悩に満ちているように聞こえる。中将は耳を澄まし、その音から機数を割り出そうとした。3機、ひょっとして4機。エンジン音の少なさに中将は暗澹たる気持ちになった。パイロットがプロペラのピッチを進め、スロットルを絞り、フラップを下げ、前輪の脚を下げ、最終進入に入り、接地して・・・・。と中将は伝わってくる音からその光景が浮かんだ。
「搭乗員は、すぐ報告に来るように・・・・」と部下に命令を下した。
間もなくエンジンの音が止まり、ボストンは作戦指揮所前の繋留区域に停止したらしい。彼はドアが開き、そして閉じられ、ブーツの足音が近づいてくるのを聞いた。3機のボストン爆撃機の搭乗員たちは中将の前に整列した。中将はすぐに休めをかけた。彼らの顔は、予想もしなかった悪夢のような対空砲火を潜って来た事実をまじまじと物語っていた。
「これで全員か?」彼は聞いた。
搭乗員たちは頷いた。12機のボストン爆撃機が出撃した。そして帰還したのは3機。9機が喪失。恐ろしい数字である。しかし紛れもない事実なのだ。大量虐殺にあったようなものだ。
搭乗員たちは戦闘報告を始めた。中将は彼らが作成した戦闘詳報に官姓名を記入しサインするのを確認した。これが大切なところなので繰り返すが、彼らは氏名、階級、認識番号、そして作成日時などをちゃんと記入したのだ。
「諸君、ご苦労だった。一杯やってくれ。ありがとう」
搭乗員は退出し、あとに残された中将は一人思いに沈んだ。搭乗員の喪失75%・・・。作戦失敗どころではない。若い部下たちを有無を言わさず肉挽き機に投げ込んだようなものである。
そんなところに副官が入ってきた。「サー」
中将は顔を上げて頷いた。
「サー。誠に残念であります・・・・」
「なんだ、言ってみろ」
「サー。我々は甚大な損害を被りました。我々は・・・」
「判っている、判っている」苛立たしげに中将は言った。
「出撃12機のうち、9機が損失だ」
副官が不思議そうな表情を浮かべた。「ノー、サー」
一瞬希望が湧いた。他の飛行場にたどり着いた機体があったのか?
「なんだって?どういう意味だ?」
氷のような言葉が伝わってきた。
「サー。全機喪失であります。12機全部が撃墜されました」
静寂・・・・。
「それはおかしい」
「お気持ちは判ります、しかし・・・・」
「そんなことを言っているのではない。ボストン12機のうち3機だけは帰投した」
副官はまじまじと上司の顔を見つめた。
「閣下、お言葉ではありますが、どういう意味でありますでしょうか?この基地には一機も帰投しておりません。繰り返しますが、サー、情報将校は出撃したボストン爆撃機12機の全機が対空砲火で撃墜されたことを確認しております」
「それではこれを見るがいい」中将は静かに言った。
そしてたった今作成され官姓名と署名入りの戦闘詳報を副官の方に差し出した。
相手は信じられぬ思いに顔をこわばらせた。その内容は情報将校から聞かされた通り、大陸側の諜報組織から届いた情報とまったく同じなのだ・・・。
「しかし・・・。閣下はこれを一体どこから・・・?」
「今帰還した搭乗員たちが書いたものだ。私は彼らから報告を聞き、バーで一杯やるよう勧めたのだ」
「サー、・・・その、基地内のバーは閉まったままです」
「どういう意味だ?」
「今晩、帰還した搭乗員は一人もいません。待機所も無人です」
「すると私が報告を受けた搭乗員たちはどこの誰だというのかね? どうしてここにサイン入りの彼らの報告書があるのだ? 君は帰投後に出頭してきた搭乗員たちは、その前に戦死していたというのかね?」
副官は答えを失って立ち尽くした。手には、書かれるはずのない撃墜された搭乗員のサインが入った戦闘詳報を持ったまま・・・・。
後日、副官の言うとおり、出撃した12機ボストンは確かに撃墜されている。捕虜なし、生存者無し。3機の搭乗員たちは間違いなく中将の目の前で戦闘詳報を作成して署名している。
彼らはその報告を作成して、提出し、中将に「一杯やってくれ」とねぎらいの言葉を受ける一時間も前に戦死しており、当然、彼らが基地のバーで一杯やる光景は誰にも見られぬままに終わっている。
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おはようございます
ただただ怖い話より このような不思議で もしかしたらあるかもしれないような話の方が 好きです
by ハマコウ (2013-08-14 07:05)
ハマコウさま
こんにちは。私もこういう不思議系の話の方が好きです。イギリス人も怪談が大好きだそうで。
by onemore (2013-08-14 14:33)