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パラシュートの歴史

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 空を飛ぶ乗り物で怖いのは不測の事態。車と違って急にエンジンがトラブルを起こして失速しようものなら、無事に着陸させないといけません。最悪なケースは、機体を捨てて脱出すること。

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 パラシュートが飛行機に装備されたのは、飛行機が空を飛んで10年経ってからからでした。類似したものは千年以上も前からあったのらしいですが、必要性があって注目されはじめたのは、熱気球が出来てからです。
 (
右図はイタリアの無名人士による最古のパラシュート図版(1470年))


 1783年にフランス人のルイ=セバスティアン・ルノルマンという人が、パラシュートを再発明し、彼の手によってパラシュートという名前が提案され、定着することになるのです。

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 そして2年後の1785年、ジャン=ピエール・ブランシャールという発明家が、パラシュートを使えば、熱気球から安全に飛び降りられることを実験で証明しました。すごいことだと思います。パラシュートが開かなかったり、破れたりしたら、間違いなく死んでしまうのですから。
(左図19世紀後半に描かれた1783年のルノルマンのジャンプの図)

 この人、勇気があるなぁと思ったら、実験は犬を使ったそうで^^;
 犬もえらい迷惑な話ですね。この犬、ブランシャールの家の犬なら絶対なつかなくなると思います(笑)
 その後、犬の恨みなのか、祟りなのかは分かりませんが、8年後に熱気球の事故でブランシャール本人自身が、自分の体で試すことになります。命を張った脱出は無事成功。パラシュートが人間にも有効であることを証明しました。

 しかし、このこの頃のパラシュートは、木枠の上から布を張ったもので重く実用性に乏しく、気球も墜落するとはいっても徐々に高度が落ちていく場合がほとんどですので、パラシュートが必要な機会は少なかったようです。

 それよりも、パラシュートは見世物として使われるようになりました。これが原因なのか、生命を救う道具としてのパラシュートはパイロットたちの間では全く普及することはなかったそうです。

 飛行機で初めてパラシュートが使われたのは1912年のこと。アメリカ陸軍のアルバート・ベリー大尉がミズーリ州上空で初めて飛行機からのパラシュートを使用しての降下実験を行っています。
 
 実際の非常脱出で使われたのは、第一世界大戦後の1922年のことでした。
 アメリカ陸軍航空隊のパイロット、ハロルド・ロス・ハリス中尉のローニング戦闘機が空中分解を起こし、高度800mで空中に投げだされます。
 中尉は手動開傘式パラシュートで無事に生還し、これが事故によるパラシュートによる非常脱出、世界初の重航空機からのパラシュート脱出となるのでした。
 とはいえ、第一世界大戦中は故意に敵国の飛行機を破壊し合いますので、実際にはもっと前から脱出手段としてパラシュートの使用もあったようです。

 この空中分解の事故をきっかけに認識が変わり、翌年にはアメリカ陸軍航空隊においてはパラシュートの携行が義務付けられるようになりました。

 飛行機が運用されてから随分時間がかかった感がありますが、それは、パイロット達がパラシュートの携行を嫌っていたからでした。その理由は色々あるのですが、
・パラシュート自体が重いので飛行に影響を与えるという考えがあった(当時はそれほどまでにエンジンが非力)
・見世物として普及していたパラシュートが嫌い
・パラシュートを与えると戦闘から逃げ出すのではとお偉いさんが邪推する
・「パラシュートなんて臆病者がつけるものさ」と粋がっていた(空の男は粋がります)

 こんな理由で、第一世界大戦が終わるまでパラシュート装備は徹底されなかったとのこと。なんか分かるような気がするなぁ。
 映画「華麗なるヒコーキ野郎」でもロバート・レッドフォード扮するウォルド・ペッパーと元ドイツの撃墜王ケスラーが、複葉機の戦いの前にパラシュートをお互いに放り棄てて乗り込むシーンがあります。あれが昔のパイロットの男気だったんでしょうね。

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映画「華麗なる飛行機野郎」の1シーン

 さて、現在のパラシュートですが、パイロットの生命を守るという意味では、その座を射出座席装置と一体となり進化し、さらにスカイダイビングやパラグライダーなどのスカイスポーツにおいて活躍しています。

Ejectionseat.jpg
射出座席で地上0mでも脱出できるようになりました
800px-USN_parachute_demo_team_at_Minot_AFB.jpg


 安全対策のため通常のメインパラシュート(主傘)に加えて、リザーブパラシュート(予備傘)を装備し、さらに、意識を失った場合のために自動的に低高度を検知してパラシュートを開く装置もつけられています。

 気になる事故率ですが、総ジャンプ数の把握が困難なため正確な統計がないのが現状ですが、一説には重傷を負う事故が1000回に1件、死亡事故は5万回に1件程度といわれているそうで。
 でも年間60名前後の人が死亡するそうで。そう考えるとちょっとまだ勇気が入りますね^^;

 とんでもない強者もいるものです・・・。

Cap 518.jpg

パラシュート無し!しかも上半身裸でスカイダイビング
ハーネスがなかなか引っ張り出せず、かなりヒヤヒヤしますっ゚д゚)っ


危険ですので絶対にマネしないで下さい
(しようと思ってもできませんが^^;)


さて、この話まだ続けます。
次回は現代の脱出装置と旅客機にパラシュートがない疑問などを

→続きはこちら

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コメント 4

desidesi

射出の「脱出!」というと、
すぐにウルトラマンシリーズを連想するんですが、
この動画を見ると、映画『ハートブルー』を思いだしますね。
私は、やれと言われてもやりませんよ〜♪ (๑◔‿◔๑)
by desidesi (2015-11-10 17:01) 

ちょいのり

子供の頃はなぜかパラシュートに憧れました^^
花火なんて落下傘ばっかやってたしなあ~

ちなみに自分の足にミサンガのように巻いてある紐は
パラコードだったりします^^

by ちょいのり (2015-11-11 01:15) 

駅員3

少年飛行兵だった私の父親は、落下傘降下の訓練も受けたと聞いたことがあります。
非常に興味深く読ませていただきました。

記事とは関係ありませんが、MRJの初飛行が今日に決まったようですね!!
by 駅員3 (2015-11-11 07:56) 

ワンモア

★desidesiさま
 私もいざ飛び降りろと言われたら躊躇します(笑)
 ハンググライダーやモータハングは兵平気なんですけど^^

★ちょいのりさま
 花火の落下傘懐かしい〜。パラコートは丈夫だからお風呂でも平気ですよね^^

★駅員3さま
 少年飛行兵のお父さんのお話、もっと詳しく知りたいです。MRJ初飛行です。さっそく記事にしましたよ〜(^o^)
by ワンモア (2015-11-11 16:44) 

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