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Ta152最強伝説を考察してみる〜その2

Cap 220.jpg

  前回からの続きです。「究極のレシプロ戦争機」、「世界最強の戦闘機」との呼声が高いフォッケウルフTa152ですが、なぜ、そこまでの高い評価がついているのかを考察してみます。
 まずは高性能の根拠とされているのが、データが示すカタログ性能。

 最大速度は759km/h(高度12,300m)、上昇時間1,045m/分と、ライバルのスピットファイヤMk.14709km/h(高度7,200m)、P-51D704km/h(高度7,626m)を凌駕しており、当時の主力機のいずれにも勝っていたとされています。
 その秘密は、
MW50(水メタノール噴射)、GM-1(硝酸噴射)のブースターや、二段三速過給器にあり、特にMW50の噴射は、100馬力以上も出力が向上したといいます。
(「フォッケウルフ戦闘機」鈴木五郎著光文社)

◆一時的にパワーアップさせる、MW50水メタノール噴射装置

 このMW50というのは、メタノールと水を半分ずつ混合させた液を過給器内のタービンに噴射させることで、エンジンと吸気を冷却し、ノッキングを防ぎ、送り込まれた水分の燃焼時における水蒸気化が出力の向上につながるという装置です。メタノール(Methanol )と水(Water)が半々だからMW50という分かりやすい名称ですね。
MW50.jpg

 上図は、Bf109GのMW50システム。かなりのスペースと100kgあたりの重量になりますが、G-10型以降は標準装備となります。

 これは中高度以下では素晴らしい性能を発揮し、FW190AのBMW801Dエンジンでは、1,700馬力が2,100馬力まで向上、海面上では1,600馬力のエンジンに2,000馬力以上の出力を与えることも可能でした。反面高度が高くなると気温が低くなるため、冷却効果があまり出なかったようです。そのため、この弱点をカバーするかたちでのGM-1という、
亜酸化窒素を利用したエンジン出力装置も開発され、Ta152Hではこの両者のシステムを搭載することが決定されていました。

Ta152装備品配置図.jpg
 上図はTa152HのGM-1配置図(航空ファン増刊号「ドイツ昼間戦闘機」より)
Bf109同様、これらのシステムはエンジンのパワーアップと引き換えに多くのスペースと重量を強いられました。

 デメリットですが、このMW50の持続時間は約2分から10分間。戦闘機の限られたスペースではMW50の搭載量に限界があるため、短時間だけしか使えませんでした。またシステム装置自体も100〜300kg近く増大し、使い終わるとただの重しでデットウエイトになります。それでも短時間で敵爆撃隊の高度まで上昇しなければならない迎撃戦闘任務には非常に有効でしたので、戦争後期においては多くのドイツ戦闘機にこの装置を取り付けました。

 数分だけどパワーアップできるなんて、イザという時の必殺技のようでマンガによく出てきそうな話ですね。

◆タンク博士がP-51Dを振りきったという逸話

 更に最強伝説を裏付ける有名な逸話として、タンク博士自身が操縦したTa152が、2機のP-51に遭遇して、ブースターを使い、これを軽く振り切ったという話が残されています。
 この時は、実弾を装備していなかったとされていますので重量も相当違ってはいたとは思いますが、この話も最強伝説を彩る逸話として有名なのです。
 民間人のタンク博士の証言だけしか残ってなく、米軍側の記録もないこから、どこまで本当なのかは不確かなのですが・・^^;

 また、タンク博士の言葉として、「Fw190D型は本命ではなく、Ta152までのつなぎである」という発言からも、活躍した「D型よりもTa152型は高性能なんだ」という思いも最強伝説を彩っていると思われます。


◆Ta152は、実戦ではどうだったのか?

 さてさて、では唯一の量産型であるH型は実戦ではどうだったのでしょうか。運用開始が終戦間際の1945年1月からですので、生産機数も67〜数百機程度と不確かなのですが、実際には発動機の不調が多発しており、特にJumo213E型エンジンの二段三速過給器周りのトラブルが絶えませんでした。
 更には先ほど述べたMW50が使用できるめども立っていませんでした。当時のパイロットたちの証言にも、MW50とGM-1を「使ったことがない」「ついていた記憶がない」とあります。


Ta152装備品配置図.jpg
実際には搭載されていなかった?

 これでは、たとえ、エンジンの調子が良かったとしてもMW50使用時のD-9と性能がたいして変わらない、いや重量が増加した分、高々度以外では劣るという状況です。
 せっかくの高々度仕様もエンジンが不調ではどうしようもありません。Ta152は実戦投入が遅くなりましたが、その原因には、Ta152A〜CがFw190D-9に比べて対して性能の向上がみられなかったという理由もあります。既存の生産ラインで急速に生産を開始できるD-9の方がマシと判断されてしまったのですね。

 結局Jumo213Eの機構的問題は解決することが出来ず、殆どの機体が三速目の使用を禁じられることになりました。
 このためTa152は、事実上その喧伝される高々度性能を発揮できない機体として就役を続けることになってしまうのです。


◆フォッケウルフ社のカタログデータへの疑惑

 更には、この最強伝説の根拠のカタログデータですが、これはあくまでもフォッケウルフ社の出したカタログデータで、戦後の連合国の実際の試験値とは大きく異るのも事実だそうです。
 特に世に出回っているデータは、理論値や計算値がそのまま記載されているケースも多く、実機の性能計測値でない場合があるという驚きの結果が。

Cap 219.jpg


 1945年1月31日の試験では高度10,800mもの高空で708km/hの高性能の記録を出していますが、これは試作機で武装なしで、量産機のH型の全備重量と比較すると1トン以上軽いという驚きの実態が出てきます。1トン違うって別モノですよ。

 これがどれだけ性能差に出るかというと、空気抵抗も考慮する必要はありますが、爆弾を装備した飛行機と装備していない飛行機を比べるようなものです。

 1トンの内訳は、戦闘機の場合は、燃料、潤滑剤、機銃、銃弾などに加え、Ta152の場合は、MW50やGM-1の出力増強装置が加わります。
 フォッケウルフ社はどうも全備重量状態でない、軽い状態で性能計測をしていたのは確信的なようですね・・・^^;

 これが、実測での最高結果で、巷で言われる「MW50使用時に742km/h!」とか、「高度12,500mで760kmが発揮できる!」というのは、間違いもなく机上の計算値
であり、あくまでも性能推算値・・・だそうです。

→http://homepage1.nifty.com/HARPOON/Fw190/QA.html

 メッサーシュミットのシェアに少しでも食い込むためなのか分かりませんが、フォッケウルフ社のデータは、やや(いやかなり)盛ってるところがあるようです。おいおい。
 
 かたや連合国機の場合ですが、P-51Dのデータは軍より厳しい完全全備状態で計測をしているNAAのデータからきています。ドイツ式は燃料搭載量を減らして計測しているのでこれを同じように比べるのは不公平というものですね。

 よくいえば、実戦での運用状態を想定してシビアに計測するアメリカと、どこまで技術の可能性を引き出したかという希望的観測的視点で計測するドイツ側の差なんでしょうか。

◆最強の飛行機論議はあまり意味がない?カタログデータの夢

 と、まあ、Ta152Hは、日本でよく言われている「究極のレシプロ戦闘機」と呼ぶにはその根拠を見る限り、すこ~し無理があるかなぁという気がします。
 実際の所、最高速度だけでもって戦闘機の性能をみる訳にはいきませんし、どの空域で戦うのかで戦闘機の性能は大きく変わります。上昇率や運動性、その時の戦闘機の搭載量やコンディション、そして、どの空域で戦闘が発生したのか、パイロットの熟練度はどの位なのか、本当に公平な性能判断をするのは極めて難しいことです。もしそれを行うなら現実にはありえない話になるでしょう。

Focke_Wulf_Ta152.jpg
戦後イギリスに接収されたTa152


 結局、優秀と言われる飛行機の条件は、開発当初の目的を達したかどうか。クライアント(発注者)の要求のみならず、実際の戦局で有効に活用できたのかというところだと思います。後はパイロットの技量が大きくものを言いますしね。カタログスペックにあまりとらわれないようにしないといけません。

 「ベストコンディションなら相手に勝つ実力があった」という話も試合ではよくある話なんですけど・・・・。それを言ったらキリがありませんね^^;

 とまあ、ドイツ機ファンの私自身にとっても、今まで抱いていたTa152最強伝説の根拠が揺らぐのは、残念で夢がないような話なのですが、個人的には、少年時代に盛り上がった「最強の戦闘機はどれだ」議論も、年をとるにつれ、さほど興味がなくなりました。
 というか、
なにをもって最強・最高と呼ぶには、あまり意味がないし、結論も出ないように思います。まあ、結論が出ないから議論として良いのだという意見もあるかもしれません(笑)。
 誰が一番優秀とか、人気があるとか、あまり興味がない年になったというせいもあるのかも^^; 

 最強伝説が夢であっても、フォッケウルフのFw190シリーズが魅力的であるのは変わりません。

 学校でも色んな個性を持った生徒がいるように、飛行機もそれぞれ個性がありますから
どんな子でも「本来、頑張れば出来る子なんだな」という温かい目でみてしまうのです(笑) 

Cap 222.jpg


今回の話のまとめ

◆日本でよく言われるTa152H最強伝説は、フォッケウルフ社のカタログデータによるものが大きい。
◆カタログデータには、MW50やGM-1使用時のデータも盛り込んでいるが、実際に装備をしたことはなく、机上の予想値も含まれる。
また、全備重量でない計測値も盛り込まれているので、他機種のカタログデータとそのまま比べるのは平等ではない。
エンジンも高速性能を発揮するJumoエンジンの三段目の過給器も使用禁止の通達がでるほど不調に悩まされた。


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こんな記事も参考に

1944年:液冷型の登場〜儚き希望D-9
→http://homepage1.nifty.com/HARPOON/Fw190/D9.html

1945年:実態の無い夢〜Ta152各型とドーラ後期型
→http://homepage1.nifty.com/HARPOON/Fw190/Ta152H.html


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タイド☆マン

クルマのエンジンではNOSシステムがありますね
亜酸化窒素をシリンダー内に噴射して
一時的に高回転させるようです☆
by タイド☆マン (2015-06-14 04:31) 

ワンモア

★タイド☆マン さま
ほっほぅ。NOSシステムと言うのですね。
詳しく調べてみようかな。
by ワンモア (2015-06-14 06:37) 

ロートレー

2話にわたるTa152最強伝説はとても内容の濃い力作で
おおいに堪能させていただきました。
B29の高高度爆撃に対して、日本の迎撃機に過給器やブースターを搭載する試みはなされていたのでしょうか
by ロートレー (2015-08-24 18:15) 

ワンモア

★ ロートレー さま
こんにちは〜。いつもありがとうございます。
B-29への対策の日本の話はいつか記事にしたいと思っておりますが、ドイツ同様、過給器に問題があったようです。
by ワンモア (2015-08-25 13:38) 

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