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過去の成功体験が招いた悲劇〜デファイアントとロック

◆旋回機銃装備の戦闘機

 軍用機というのは生まれる前に目的と使命が与えられます。例えば偵察機なら「より遠く、より早く撮影をして戻ってくること」。爆撃機なら「いかに多くの爆弾を搭載して速やかに投下すること」などですね。
 戦闘機ならば、制空権を確保するのが目的なので「敵機を撃墜する」のが至上命題になります。当時の装備は機銃や機関砲なので、いかに射撃位置につくかなどが求められますが、これに対しては小回りが効く格闘性能、もしくは高速性や上昇力、加速性能などが求められます。
 この当時の戦闘機は敵機を撃墜する方法として空戦重視にするのか、一撃離脱重視にするのかという2つに大別できました。もちろん両者をバランスよく統合したスタイルも多いしそちらが主流ですがどちらにしても機動性能が格段に求められるのが戦闘機といえます。

零戦&109.jpg
対局に存在する空戦能力の雄、零戦と、一撃離脱の先駆者Bf109

(ハセガワ 1/48スケール 零戦11型中国大陸、Bf109E-4/JG77 ブリッツ箱絵)


 だけど、イギリスだけは別のデザインを求めたのです。それは、格闘性能でも一撃離脱性能でもない第3の道ともいうべきものでした。それは、戦闘機に旋回機銃を装備させて、射撃のチャンスを格段に増やそうというアイデアだったのです。
 要は、「機銃が前だけにしかついていないよりも、旋回機銃の方がチャンスが増えるじゃん」という発想。
二人乗りにすることによってパイロットは操縦に専念し、銃手は広い射角を得られる旋回機銃で攻撃に専念できるので戦闘を有利にすすめられるという訳です。もちろん戦闘機としての運動性も求めてはいるのですが、主眼が旋回機銃にあったのは否めません。

 この発想で実用化にまでこぎつけた国はイギリスだけなのですが、突拍子もない考え方ではなく、ブリストル・ファイターなど第一次世界大戦から採用していたイギリス式の戦闘方法でもあったわけです。

ブリストル・ファイター.jpg
5,000機以上も生産された二人乗り戦闘機ブリストル F.2 ファイター
軽快な運動性能に加えて後部銃座もあるので、敵機を数多く仕留めることができました。



◆英空軍のボールトンポール デファイアント

Boulton Paul Defiant.jpg


 さて、上記のアイデアで実用化させてしまったのが、
ボールトンポール・デファイアントという戦闘機。ボールトンポール社って名前がなんかカッコいいですが、他社製の航空機を主に生産していて、どちらかというと爆撃機に装備する旋回機銃の製造で有名なメーカーです。

 
英空軍の要求仕様に応じる形で1935年からスタートしたこのコンセプトの戦闘機は、得意の旋回機銃の技術を戦闘機に取り入れて採用にこぎつけます。初飛行は1937年

 デファイアントの最大の特徴となる銃塔は、コクピット後方に搭載され、7.7mm機銃を4門備えた重武装となっています。旋回機銃は電気ポンプによる油圧で旋回し、垂直尾翼に当たりそうになる場合は自動的に電気が遮断され発射が停止するようになっているほか、機体前方へはコクピットとプロペラへの命中を避けるため、19°以下への射撃が出来ないようになっていました

Boulton_Paul_Defiant_Mk_I_in_flight.jpg


 そう、得意の旋回機銃の技術は優秀だったのです。
その代り、普通の戦闘機なら当たり前に装備している前方への機銃が一切付いていません。しかも同じエンジンを搭載しているホーカー・ハリケーン戦闘機と比較すると、サイズや翼面積が近いのに全備重量が1トン近くも重くなってしまいました。単純にスペックを比較すると鈍足で機動性が低く、上昇性能の悪い戦闘機と言えました。まあ、当然といえば当然・・・・。その実戦成果ですが、どうだったのでしょうか。

◆戦果があったのは最初だけ。

 最初の配備は1940年。イギリス海峡のパトロールの任務に就いたのですが、ドイツの爆撃機やBf110戦闘機などを計65機も撃墜しています。
 ただ、この状況は、ドイツ軍のパイロットが
デファイアントをハリケーン戦闘機と誤認して後方から接近したところを仕留めた場合がかなりあったようで、要は向こうからみすみす餌食になってきたということが多かったようです・・・。ドイツが側も「あれ?これハリケーンじゃないじゃん!」と気づき始めると、軽快なBf109によってバタバタと撃墜されるようになります。特に正面から攻撃されると手も足もでません。

Boulton_Paul_Defiant.jpg
これでも戦闘機なんです。ハリケーンに似てないことも。


 これ、よく考えると、威嚇としては後部銃座は意味があるのですが、戦闘機として高機動をしながら撃墜を行うとなると、操縦士と銃手の連携が重要になるので、かなり難しいことが分かります。まあ、これも実戦を想定した訓練などを行えば、容易に分かることだと思うのですけど・・・。
 戦闘機の場合、何のために操縦しているかというと、相手を撃墜するポジションに位置するためにしている訳ですから、そのまま操縦士が射撃するのが一番なんですけどね。

 結果的に、
デファイアントは主だった成果もないまま、昼間の任務は早々に撤退し、夜間任務に回されることになります。それまでの間、英空軍パイロットの間で付けられたあだ名は、"daffy"(馬鹿、うすのろの意味)でした。なんとも不名誉な愛称を付けられることに・・・。

An_air_gunner_of_No._264_Squadron_RAF_about_to_enter_the_gun_turret_of_his_Boulton_Paul_Defiant_Mk_I_at_Kirton-in-Lindsey,_Lincolnshire,_August_1940._CH874.jpg
乗り込むのも狭くて大変。
IWM_CH2526.jpg
後部銃座は脱出するのが極めて困難でした。
Mk1_Defiant.jpg
最大の長所と思えたものが最大の欠点となるという皮肉。


◆英海軍のブラックバーン ロック

Blackburn Roc.jpg


 さて、
デファイアントが「使えない戦闘機」という馬脚をまだ現していないころ、イギリス海軍もこの旋回機銃付き戦闘機に目を付けます。やはり同じイギリスですな。

 イギリス海軍では超低空で艦隊に接近し、雷撃を仕掛けてくる敵航空機に対しこの方式の攻撃が効果的であると考えます。同じ方向に進行しながら撃ち合うなら射撃時間も長くなるというもの。


 デファイアントを海軍にも回せと要求しますが、当時はスピットファイアやハリケーンなどに装備されている
貴重なマーリンエンジンを海軍に回すことには空軍が反対します。
 そこで、代わりにブラックバーン スクア艦上急降下爆撃機の操縦席後部に、ディファイアントと同様の7.7mm機銃×4挺装備の銃座を搭載し、代わりに主翼の機銃を全廃した戦闘機を開発することになります。この新型戦闘機はブラックバーン ロックと名付けられました。名前だけはカッコいいのですけどね・・・。

Blackburn_Roc.jpg
なんか、かっこよくないぞ。


 ブラックバーンスクア急降下爆撃機はそこそこ運用の信頼もあり、評価もあったのですが、爆撃機に装備するような多連装旋回銃塔システムでは速度や運動性がガタ落ちに。
 
デファイアントと同様に早々に第一線から退くことになります。

  ようやく気づいた英軍も、デファイアントの旋回機銃を下ろして通常の戦闘機として使おうとしたのですが、時既に遅しでスピットファイアとハリケーンが活躍していて、入る余地はありませんでした。それでも1,000機以上も生産してしまったというのはなんともです。

Roc_L3084_778or771sqdn1941-2.jpg

 
 第一次世界大戦で成功できたのは、お互いの速度がまだ遅く、旋回機銃でも射撃がしやすかったことと、操縦士側にも前方固定機銃が装備されていたということがありました。
航空機の発達という時代の流れを見極めないと、こういう悲劇の飛行機を作り出してしまうという良い例ですね。
 可哀想なのは、コンセプトのおかしいまま生み出されたヒコーキ?いや、この場合は、乗り込むことになった英軍パイロットと銃手だと思うのです。

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コメント 3

タイド☆マン

デファイアントはカッコイイです まだ見られます ☆
形 デザイン って 搭乗員の士気にも
大きく違いが出たのではないでしょうか ?
by タイド☆マン (2016-11-27 03:50) 

johncomeback

正面から攻撃されると手も足も出ない戦闘機って・・・
素人でもダメじゃんって分かりそうなもんですが(-_-)ウーム
by johncomeback (2016-11-27 10:34) 

ワンモア

★ タイド☆マンさま
 うーん、私的にはすごい違和感(;^ω^)
形やデザインは士気的にはまったく影響ないように思います。
何より生死を預けるものですので、性能や成果が一番士気に影響するのではないでしょうか。不細工でも性能がいいと信頼もされ愛称も付けられていますが、"daffy"では推して知るべし・・・。

★johncomebackさま
 そうですよね。現場の声が活かされていない発想のように感じます。少なくとも模擬戦やテスト飛行の際に敵機を撃墜することが難しいと分かりそうなものですが・・・。戦闘機ではなく、別の任務ならまだ良かったかもしれませんね。

by ワンモア (2016-11-27 12:10) 

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